第百二十六話 ※幼女とデートするやつと思われてます

 久守さんはどうやら、完成した校内新聞を見せにこの教室に来てくれたらしい。

 よく俺たちがここにいると分かったなぁ。と、考えていたらちょうどそのことについて久守さんが教えてくれた。


「放課後はいつも、星宮先輩と大空先輩が教室デートしてるってうわさを聞いてたんで来てみたんすけど、本当だったんすね!」


 ……教室デートって。

 誇張されているというか、真実に酷い角度がつけられているというか……反論したい気持ちはやまやまなのだが。


「デート……♪」


 ひめがまんざらでもなさそうなので、何か言うことはやめておいた。

 ここで反論したらデートを嫌がっているように見えるかもしれない。あと、ひめと二人きりでいる時間が好きという事実は変わらないので、デートでもいいや。ひめも喜んでるし。


(もしかしてみんな、気を遣ってくれているのかな……?)


 道理でクラスメイトの帰宅が早いはずだった。

 最近、妙に俺とひめに都合がいい気がしていたのである。何せクラスメイトが誰も教室に残らない。いつも俺とひめが二人きりになるので、それを偶然と片付けるにはちょっと違和感を覚えていたのだ。


 なるほど。放課後に教室デートをしていると思われていたから、みんなが気遣ってくれていたんだ。


 厳密にはデートじゃないけど……そういうことにしておいてもいいか。クラスメイトの優しさに感謝である。


 と、そんなことを考えながら久守さんの新聞を眺めていると、彼女が少し真面目な顔つきでこんなことを言った。


「まぁ、これはサンプルなんで……もし星宮先輩が嫌なら掲載は控えるっすよ。内容を確認してほしくて持ってきたんで、後でチェックをお願いするっす」


 やっぱりこの子、すごくいい子だなぁ。

 たぶん、漫画とかアニメの影響なのだろう。新聞部にあまり良く思っていなかったのだが、この子には悪いイメージがまったくない。


 礼儀正しいし、筋を通すし、とにかく明るい上に、ちゃんと相手への気遣いも忘れない。

 だから、ひめも彼女については信頼しているようだ。


「掲載していただいても問題ありませんよ。久守さんなら大丈夫だと思うので」


 実はひめ、俺と出会う以前から久守さんとは顔見知りらしい。

 どうやらひめに関する記事を書くために、本人が直接インタビューを受けたことがあるようだ。その際に久守さんの人格などは把握していたのだろう。俺と同様、彼女については信頼しているみたいだ。


「いいんすか!? ありがとうございます! ふぅ……この記事でなんとか廃部は免れそうっすね」


「廃部? なんでまた、急に廃部なんて」


 少し物騒な単語が出てきてびっくりした。

 そこまで新聞部は活動が危ういのだろうか。


「あたし一人なんでそもそも部活として認められるのが怪しかったんすけどね……元気と気合で生徒会にゴリ押しして部活動を認めてもらったげく、活動費として部費ももらったんすよ! 結果、ちゃんと活動しているか精査が入って怒られたっす」


 若干、自業自得な気が……いや、まぁゴリ押しだろうと承認されているわけだから、久守さんが悪いわけではないか。


「まずいっす。旅行……じゃなくてバスケ部の全国大会を取材したくて遠征費を要求したら生徒会長にガチギレされたんすよ。わがままばっかり言ってるぞ廃部にするって……なので、しばらく大人しく活動実績を作ろうかなと!」


 うーん。ごめん、やっぱり自業自得な気がした。

 久守さん、積極的で明るくて礼儀正しいところはいいんだけど……結構、図太い性格なのかもしれない――。

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