第百十三話 『ご褒美のちゅー』を賭けて

 ひめと心陽ちゃんがゲームで遊ぶことになった。


「こーやってブロックをうごかすのっ」


「……ボタンとスティックで操作する、ということですね」


 二人が今やっているのは、落ちてくるブロックを左右に動かしたり回転させて狙ったところに積み重ねて、横一列のラインを埋めるとその列が消えてポイントが増える、という仕組みの定番ゲームだ。


 いわゆる、落ちものパズルゲームと呼ばれる種類である。ゲームが好きじゃない人も一度は触ったことがあるであろう、古くから続いているゲームだ。


「なるほどなるほど……ふむふむ」


 ゲーム画面を見て操作を確認しながら、ひめは何やら頷いている。

 彼女は俺の前ではかわいい一面ばかり見せるただの愛らしい幼女だが、実は海外の論文雑誌にも掲載されるほどの頭脳を持つ天才少女でもある。


 このブロックゲームでも、その天才性を発揮するのではないか……という期待を実は持っていた。


「じゃあ、しょーぶしよっ」


「勝負……とりあえず列を消せばいいのですよね?」


「うん! そーだよ!」


 ひめがある程度操作方法を覚えたところで、心陽ちゃんが勝負を挑んだ。自分もやりたくてうずうずしていただろうに、ひめにちゃんと教えてあげて偉い。後で褒めてあげよう……と思いながら、俺はゆっくりと息をついた。


(ふぅ、片付けは一通り終わったかな?)


 二人がゲームを始めてからしばらく、俺はお菓子の袋を捨てたり落ちていた欠片を掃除したりしていた。おかげで大分綺麗になったので、一息つくことに。


(やっぱり、食べすぎたかなぁ……)


 苦しい、とまではいかないのだが。

 お菓子でお腹いっぱいなせいか動きたくない。というか横になりたい。


 血糖値が上がっているのを感じる。このまま眠ると間違いなく健康に良くないので、ぐっとこらえないといけないのは分かっている。


 だから眠りはしない。だけど座るところがないので、ベッドに腰かけた。

 モニタの前は二人が占領している。この満腹状態でまたひざの上に乗られたら流石にきついので、少し離れた場所から見守っていよう。


「いくよー! 勝った方がごほーびでよーちゃんにちゅーできることにしよっ」


「え? ご、ご褒美? それは聞いてな……!」


 ひめ、慌てないで落ち着いて。

 心陽ちゃんもさすがに冗談だと思うから。


「ぜったい勝つもんっ」


「……ま、負けられくなってしまいました」


 えっと……じょ、冗談だよね?

 二人とも本気というか、目の色を変えてゲーム画面に集中している。冗談には見えない態度が、少し不安になった。


 この落ちものパズルゲーム、最近では対戦もできるモードがあるらしい。ひめと心陽ちゃんはそれで遊んでいる。自分の列を消すと、相手の画面に列が増えるというシステムで、それが連鎖すると列が消せなくなってゲームオーバーとなるのだ。


「うにゃー!」


「くっ……!」


 序盤、勝負は流石に経験者の心陽ちゃんが優勢だった。何も考えずにブロックを消しているだけだが、それでも十分ひめは苦しそうである。


 ひめ、ブロックの置き方は上手なのだが、いかんせん操作が慣れていない……どうしてもワンテンポ遅れるようで、心陽ちゃんに責められる時間が続いた。


 しかし、流石は天才幼女。

 操作に少し慣れると、途端にブロックが消え始めた。心陽ちゃんと違ってこっちは頭脳的というか、列の消し方が連鎖的である。一列だけじゃなく数列が一気に消えるので、逆に心陽ちゃんもきつそうになってきた。


「ぐぬぬっ……ちゅーはこはるのものだもん!」


「わ、わたしも、そこは譲れません」


 ……ご褒美に少し不服があるのだが。

 しかし、この勝負の行方はどうなるのか、純粋にすごく楽しみである――。

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