第百十二話 おやつが終わって
お昼ごはんを食べなくて良かった。
そうじゃないと、今頃お腹いっぱいすぎて苦しくなっていたと思うから。
「ごちそーさまでしたっ」
「ごちそうさまでした」
心陽ちゃんがとひめがお行儀よく手を合わせている。
二人とも育ちがいいからか、食後の挨拶は欠かさない。姉さん、ああ見えて子供の教育はしっかりしてるんだよなぁ。
「ご、ごちそうさまでした」
俺も続いて、手を合わせた。
クッキーを作ってくれた芽衣さんへと、お菓子を作ってくれた工場や、原材料を生産してくれた農家さんへの感謝。
あと、ようやく二人からの『食べて食べて攻撃』を回避できたことへの感謝の思いもあった。やっと終わった……結局、お菓子の七割くらいを俺が食べた気がする。いや、正確には食べさせられた、が正しいかもしれないけど。
クッキーも両親と姉の分を残して結構食べさせられた。あんなにたくさんあったのに……まぁ、美味しかったからいいんだけど。
「よーちゃん、ゲームしたいっ」
俺と違って心陽ちゃんとひめは適度な分量しか食べていない。二人ともまだまだ元気である。俺が食べすぎただけとも言える。
次はゲームか。まぁ、彼女が夢中になっている間にお菓子の後片付けができるので、ちょうどいい。
「ひーちゃんもゲームしよっ?」
「ゲームですか……」
ひめも心陽ちゃんに誘われていた……あれ? ひめ、あまり乗り気じゃないようにも見えた。
(……あ、そういえば電子機器は苦手だっけ?)
前にそんな話をしていたことを思い出す。
ひめは一度見聞きした物を全て覚えることができるらしい。そのおかげで勉学においてはかなり優秀な成績を修めている。
ただ、その能力のせいでひめは情報量の多い媒体が苦手らしい。ネットやテレビなどのメディアを見ていると、たくさんの情報が流れてきて気分が悪くなると言っていた。
だから彼女は学校でスマホを持ち歩かない。おでかけする際は連絡用に持つと言っていたのだが、それだけだ。
なので、ゲームもあまり好ましくはないのだろう……まぁ、情報量の多い媒体ではないというか、限定された情報量で構成されているコンテンツではあるので、メディア媒体に比べたらマシだと思うけど。
とはいえ、無理強いするのは良くないわけで。
「心陽ちゃん、実は――」
ひめが断るのは難しいかなと思ったので、代わりにそれとなく心陽ちゃんのお誘いを断ろうとした。
しかし、それを遮るようにひめが声をあげた。
「――ぜひ、やってみたいです」
たぶん、俺が断ろうとしていたことにひめは気付いている。頭の良い子だから、俺の行動なんて読まれているはずだ。
しかし、それをあえて遮ったということは……心配いらない、という意思表示なのだろう。
先ほど、心陽ちゃんに誘われた瞬間はあまり乗り気じゃなかったように見えたけど、いったいどういう心境の変化なのだろうか。
「ゲームって、陽平くんが好きなものですよね?」
「え? まぁ、そうだけど」
「それでは、やります。ぜひ、やってみたいです」
そんなやりとりを経て、俺も分かった。
(この子、ゲームじゃなくて……俺のことに興味を持っているんだ)
ゲームそのものには関心がなさそうに見える。
ただ、俺が好きなものだからこそ、ゲームに興味を持っているようにも見えた。
……本当に、かわいい子だと思う。なんだか照れるなぁ。
分かりやすく好意的な態度が、嬉しくないわけがなかった――。
//あとがき//
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