第百十四話 どっちのちゅー?

 ――勝負は白熱していた。


「まけないもんっ」


「わたしだって……!」


 もちろん、二人とも手を抜いているわけじゃない。

 本気で勝負を挑んでいる上で、まったくの互角だった。


(やっぱり経験って大切なんだなぁ)


 頭脳では圧倒的にひめが勝っている。ブロックの配置も綺麗で、連鎖的に列が消えるようにうまく調整している。

 しかしそれでも、ひめは操作に慣れていない。要所で配置や回転の操作でミスをする上に、そもそもブロックを置くスピードも遅い。


 頭に体が追い付ていない、とはまさにこのことだと思う。

 おかげで何も考えずにひたすらブロックの列をそろえまくっている心陽ちゃんといい勝負になっていた。頭なんて微塵も使っていないのだが、やり慣れているだけあって操作でミスがない上に、ブロックを置くのも早いのである。


(まぁ……むしろ心陽ちゃんと互角に戦えていることがすごいのかな)


 初めてにしてはよくやっている、と言うべきなのかもしれない。

 ひめは記憶力がいいけど、決して万能というわけじゃない。というか、運動面においては同世代の中でも少し苦手意識を持っているようにも見える。


 ゲームなんて特に反応速度が大事なので、ひめにとっても簡単なコンテンツではないみたいだ。


(とりあえず、気分は悪くなさそうだし大丈夫か)


 ベッドの上から二人の様子を見守りながら安堵の息をこぼす。

 ひめはネットやテレビなど情報が多い媒体を好まない。ゲームはその二つと比べてマシとはいえ、気分を悪くしないか実は心配していた。


 でも、今のところ大丈夫そうで良かった。

 ゲームにもよると思うけど、シンプルな構造の落ちものパズルゲームなら特に問題ないように見える。


(ちょっと横になろうかな。長くなりそうだし)


 二人の勝負はしばらく決着がつきそうになかった。

 ひめの心配もなくなったせいもあるのか、体を起こしている状態が億劫に感じてきて……ついつい、ベッドに倒れこんでしまった。


 横になった状態でも二人の様子とゲーム画面は見える。

 もちろん、眠るつもりはないし、ちゃんと勝負を見届ける……予定だったのだが。


(…………)


 やっぱり、お菓子を食べすぎたのが仇となった。

 血糖値が上がっていて意識がぼんやりしている。眠らないと決めていたのに、無意識に目が閉じていて……いつの間にか、意識が沈みかけていた。


「うにゃぁあああああああ!!」


 意識がなくなる寸前。

 心陽ちゃんの叫び声が聞こえてきたのだが、目を閉じているのでどちらが勝ったかは分からない。


 この時点でもうすでに俺は九割くらい眠っていた。

 ただ、完全には寝ていなかった。頭の片隅では起きないと、と思っていたのだが……睡魔に勝つことはできず、結局ずっと目を閉じたままで。


『ちゅっ』


 ほっぺたに何かを感じた。

 優しくて、それから柔らかくて、少し熱い……ただ、目を開けていないので何かは分からないし、その時にはもうほとんど寝ていたので、起きることもできなかった。


「――――」


 意識はもう、ほとんどない。

 ほっぺたに何かを感じた、という記憶が残っただけだ。


 ……もちろん、この感触が何かは分からない。

 そもそも現実のことなのか、夢のことなのかも、定かではない。


 仮に現実だとしても、ただほっぺたに何かが触れただけかもしれない。

 なので、これが二人のうちの誰かのキスかどうかすら分からない。


 ……ただ、起きた時にすごく困惑するだろうなという予感を抱きながら、俺は完全に意識を落とすのだった――。

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