第百十話 ロリに子供扱いされる系主人公

 そんなこんなで、二人が楽しそうにお菓子を食べている姿を眺めていたわけだが。

 意外なことに、心陽ちゃんは俺のこともちゃんと意識してくれていたようだ。


「よーちゃんも! はい、どーぞっ」


 心陽ちゃんがポテトチップスを一枚、俺の口元に差し出してくれた。どうやら食べさせてくれるらしい。


「おなかぐーぐーしてたんでしょ? よーちゃん、しょーがないにゃ~」


 いや、別に空腹と言うわけじゃないんだけど……まぁ、せっかくの好意だし素直にいただこう。


「心陽ちゃん、ありがとう」


「にひひっ♪ しょーらいの『およめん』だからとーぜんだよっ。あーん♪」


 食べる、というか唇に押し当てられているのでねじ込まれたという表現が正しいかもしれない。心陽ちゃんの指がお構いなしに口の中に入ってこようとしていたので、噛まないように気を付けてポテトチップスだけを受け取った。


 うん、コンソメ味も美味しい。姉さんはうすしお派だった気がするのだが、お菓子は心陽ちゃんが選んだのだろう。そして俺が一番好きな味はブラックペッパー味なので、姉と母に邪道だと言われてあまり買ってもらえなかった。美味しいのになぁ。



「よーちゃん、どーぞ!」


 一枚目を食べたら、すかさず二枚目を押し付けてくる。有無を言わしてくれないのは流石だ。食べるという選択肢以外が用意されていない。


「はい、お口あけてっ」


「んぐっ……こ、心陽ちゃん? ペース早くない?」


 ひめには一枚だけだったし、もっと手つきも優しかったのに。

 俺に対しては雑で強引だ。しかも大食いをしているかのごとく次々と食べさせようとしてくるので、さすがに喉が詰まりそうだった。


「男の子でしょっ。いっぱい食べてね?」


「……ちょ、ちょっとゆっくりしてもらえると嬉しいなぁって」


「えー? いっぱい食べておーきくならないとダメだよー?」


 それは俺のセリフだと思うけど。

 心陽ちゃん、前からどうも俺のことを年下扱いしてるんだよなぁ。たぶん、母親の影響だと思う。


 姉さんが弟の俺を猫かわいがりするので、同じような態度で接しているのだろう。

 そしてそれを見ていたあの子も、どうやら少し影響を受けてしまったようで。


「……陽平くん、こちらもどうぞ」


 俺と心陽ちゃんのやり取りが羨ましかったのだろうか。

 ひめが、クッキーを口元に差し出してきた。


「いっぱい食べて大きくなってください」


 いや、だからそれは俺のセリフなんだって。

 もっと言うと、ひめって心陽ちゃんとそこまで体格が変わらないくらい小柄なので、この子こそたくさん食べるべきだと思う。


 六歳と八歳は年齢こそ二つしか違わないものの、この年齢の二歳差はかなり大きいので、体格も本来であれば一目でわかるくらい違いが出ていることが普通である。


 小学校低学年のうちは、早生まれの子とそうでない子の体格差だって分かるくらいなのだ。それなのに二人が同じような体格というのは、ひめが小柄であることを意味している。


 そして俺は標準の体格なので、食べすぎるとむしろ太っちゃう気がするのだが。


「……食べないのですか?」


「た、食べる! もちろんもらうよ、いただきますっ」


 ひめが寂しそうにシュンとしたので、すかさず俺はポテトチップスを飲み込んでクッキーを食べた。


 ダメだ……もしかしたら俺は、相当ひめのことを大切に思っているのかもしれない。


 いくら正当な理由があっても、ひめの暗い顔を見るくらいなら無理をした方がマシだと思ってしまうのだから――。

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