第百八話 姉御肌と妹気質
ひめがお茶を飲んで一息ついている。
それを横目に見ながら、そういえば俺のコップがないことに気付いた。
ひめが先程炭酸ジュースを飲んでいたコップと、今お茶を飲んでいるコップがそれぞれ別なのである。人数分の三個しか持ってきていないのが失敗だったか……台所まで取りに行かなければならない。
いや……でも、もうひめは炭酸ジュースを飲まないと思うので、代わりに俺がこっちを飲めばいいのかな?
「ひめ、こっちは俺がもらってもいい?」
「あ、そうですね。陽平くんのコップが足りませんね……どうぞ、使ってください。わたしのせいで申し訳ないです」
念のため聞いてはみたのだが、やっぱりひめは二つ返事で了承してくれた。
間接キスなんてもう気にしていない。俺もひめも、そこを意識することがないくらい仲良くなれている。ひざの上に座るひめは、俺が炭酸ジュースを注いで飲むさまをジッと見つめていた。
「……陽平くんも大人ですね。かっこいいです」
まさか、黒い炭酸ジュースを飲んだだけで褒められるなんて思っていなかった。
嬉しいというか、ひめがいい子すぎてすごくほっこりする。この子、普段はしっかりしているけど、時々世間知らずのお嬢様が出るんだよなぁ。少しズレたことを言ってもかわいいので、それはそれで魅力だと思う。
さて、そんなこともありながら、おやつの時間はなおも続く。
「ひーちゃん、これ食べてっ。おいしーよ?」
ひめがまだ口をつけていないことに心陽ちゃんは気付いていたようだ。
意外と……周囲が見えるタイプなんだなぁ。俺に対してはべったり甘えてばかりだけど、ひめに対しては優しいというか、面倒見がいい。
心陽ちゃんのわがままな部分を実はちょっと心配していた。学校でうまくやれているだろうか、と。しかしこの様子なら同級生に対しては特に問題なさそうだ。むしろ、この感じだと人から好かれるようにも見える。
わがままなのは俺にだけだったみたいだ。まぁ、身内の俺にならいくらでも迷惑はかけてもらって構わないので、いいことだと思う。常に気を張っているのも疲れるだろう、そもそも甘えられることが迷惑だとも思わないし。
「はい、あーんっ」
右ひざの上で、心陽ちゃんがひめに向かってポテトチップスを差し出している。
小さな指につままれた一枚の薄切りポテトを、これまた小さな口でひめがぱくっと受け取った。
「ありがとうございます……んっ。なんだか、不思議な食感ですね」
もしかしてひめ、ポテトチップスも初めて食べたのかな?
びっくりしたような顔でもぐもぐと口を動かしていた。かわいい。
「フライドポテトなら食べたことあるのですが……まったくの別物です。ジャガイモって薄く切って揚げると、こんなに美味しくなるのですね」
まぁ、市販のポテトチップスなので料理とはまた別のジャンルになる気もするけど。
原材料は一緒なのに、こんなに味が変わるのはたしかに不思議だ。ポテトサラダにもなれるし、肉じゃがにもなれるし、ポテトチップスにもなれるし、フライドポテトにもなれる……それぞれまったく別の食べ物だ。ジャガイモってすごい。
「こっちも!」
そして今度はとんがったコーンを差し出す心陽ちゃん。
「いただきます」
ひめも素直に、ぱくっと食べている。
……年齢的には、心陽ちゃんが六歳でひめが八歳なのだが、こうして見ると心陽ちゃんが姉みたいで、ひめが妹みたいだった。
ヤンキーの母譲りの姉御肌の心陽ちゃん。
生まれた時からずっと妹で姉に甘やかされていることに慣れているひめ。
だから二人の相性はいいのかもしれない。
ひざの上で繰り広げられる、幼女同士の食べさせあいっこ。
その光景は、なんだかとてもかわいかった――。
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