第百三話 おませ幼女と天才幼女の相性
うちの姪っ子が総理大臣になろうとしている。
しかも『叔父さんと結婚するため』という不純な動機で世界を捻じ曲げようとしている。
まぁ、言ってしまえば子供の荒唐無稽な発言だ。
普通の大人は相手にすらしない現実味のない夢の話。将来はお姫様になりたい、と言っているようなものだろう。
ただ、ひめはそんな心陽ちゃんの発言を否定せずに聞いていた。
子供の戯言、なんて切り捨てるようなことはしない。ちゃんと向き合っていたのである。
「いいですね。総理大臣になったら、結婚できる人数を少し増やしてもらってもいいですか? 陽平くんにうちの姉の面倒を見てもらいたいのですが」
「えー? どーしよっかな~」
「寛大な心で、どうかお願いします。うちのお姉ちゃんはどうしようもないダメ人間なので、陽平くんしか頼れる人がいないのです。正妻……一番の座は心陽さんに譲るので、いいですか?」
「――こはるさんっ!?」
あ、さん付けされて喜んでいる。
心陽ちゃんはませているので、子供扱いされると拗ねる。しかし反対に大人のように接すると喜ぶのだ。
ひめの態度がさっきからずっと丁寧だからだろう。
この子は誰に対しても態度を変えない。それが心陽ちゃんはかなり嬉しいのかもしれない。
「しょ、しょーがないにゃ~♪ 二番目なら許してあげるねっ」
「ありがとうございます。心陽さんは優しいですね」
「にひひ~♪」
……おませ幼女と天才幼女。
最初は相性が悪いのかなと思っていたが……こうしてみると意外と、仲良くなれそうな気がする。
(ひめ……大人びて見えるだけで、実は心陽ちゃんとの方が感性は近いのでは?)
ふと思った。
ひめは八歳にしては言動や落ち着いていて、能力も飛びぬけている。明らかに普通ではない子なので、俺以外のクラスメイトもひめとは一定の距離を置いている。
俺が仲良くなれたのも、奇跡的な縁があっただけだ。
決して、彼女のことを理解できているわけじゃない。
しかし、心陽ちゃんとひめの会話を見ていると、すごく意見が通じ合っているように見えた。
「ねぇねぇ、ひーちゃんってよんでいい?」
「ひーちゃん……いいですね。かわいいお名前です」
「うん! ひーちゃん、とってもかわいーからひーちゃんがにあってるよっ」
「かわいいだなんて、そんな……嬉しいです。こはるさんも、可愛いですよ」
「え~、そうかにゃ~♪ じゃあおそろいだねっ」
最初は少し、険悪に見えたのだが。
お互いに敵意がないことを知ってからなのか、二人は急速に仲良くなっている。
落ち着いているが、そのせいでひめは常に引き気味で消極的である。
対して、心陽ちゃんは年相応に子供っぽいが、だからこそ積極的で誰に対しても物怖じしない。
そして年齢が近い分、感性も似ている……だからこそ、二人の相性はいいのかもしれない。
(まぁ、冷静に考えたら当然かな? 年齢が十近く離れてるんだから、クラスメイトと仲良くなるのは難しいか)
俺と仲良くなるまで、ひめはよく一人でいた。
たぶん、一人の方が楽だったのだろう。感性が違う年上のクラスメイトとの接し方なんて、八歳には難しかったのかもしれない。
(やっぱり、この子も子供なんだ……)
改めて、そのことを強く認識させられた。
別にだからと言って態度が変わるわけではないのだが……年上として、ちゃんとひめのことを見守ってあげたい。
そんなことを、ふと思った――。
//あとがき//
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