第百二話 自分ではなく世界を変えてしまえばいい

 無意識に正座していた。

 自分の部屋の床で、身を小さくして二人の幼女に見下ろされている。


 心陽ちゃんは腕を組んで、俺をゴミを見るような目で見ていた。姉さんに本当によく似ているなぁ……怒った時の剣幕が怖い。


 一方、ひめはいつもとあまり表情が変わらない様子。後ろで手を組んで、子首を傾げながら俺をジッと見つめている。彼女の場合は怒ってはなさそうなのが救いだった。


 とりあえず、穏便に済むように……どう説明しよう。

 二人には、お互いの関係性について問いただされていた。


 二人はたぶん、誤解している。

 俺と彼女たちの関係は良好だが、付き合っているわけじゃないのだ。そこをちゃんと理解してもらえるように努力しよう。


「心陽ちゃん。ひめはすごく大切な友達で……可能であるなら、妹にしたいくらいかわいいと思っている子でもある」


「――えへへ」


 俺の本音を聞いて、緊張した空気がちょっと緩んだ。

 ひめがかわいいと言われて嬉しそうに笑ったのだ。相変わらず褒め言葉に弱くてかわいい。


「ふーん。妹にしたいってことは……じゃあ『こいびと』ではないってことなの?」


 おませだなぁ。

 心陽ちゃん、六歳なのに恋愛に興味津々らしい。なるほど、そこを気にしていたんだ。


「こ、恋人ではありませんよ。そんな、陽平くんとお付き合いするなんて恐れ多いです」


 ひめに恐れ多いと言われるほどの人物ではないんだけどなぁ。

 相変わらず、彼女からの評価は高すぎる。しかし今の状況においては、ひめがそう言ってくれると助かる。


 おかげで心陽ちゃんちょっとだけ安心したらしい。

 怒った表情が緩和した。鋭い目つきが優しくなった。


「そっか。うんうん、そーゆーことなんだね~」


「ただただ、かわいがってもらっているだけですよ。陽平くんは、ちょっとだけロリコンさんでもあるので、そこに便乗して仲良くさせてもらっているのです」


「……たしかに、よーちゃんはロリコンだもんね。こはるのこともすっごく大好きだもんねー」


「いや、ロリコンではないんだけどね」


 さすがにそこは否定させてもらいたい。

 しかし俺の話なんてまったく聞いてないようで、二人に無視された。


「こはるはね、よーちゃんのおよめさんになるのっ」


「そうなのですか? 姪っ子さんは婚姻関係になれないと記憶していますが」


「……そーなの!?」


「日本の法律だとそうなっていますね」


 最初は二人とも、会話なんてしようとしなかった。

 しかし次第に慣れてきたのか、俺を抜きで二人が話を進め始めた。


「し、知らなかった……」


 心陽ちゃんは驚いたように目を丸くしている。

 子供の無邪気な発言なので今まで聞き流していたけど、結構本気で言っていたらしい。

 ショックを受けていないだろうか。と、心配になったのだが。


「じゃあ、ほーりつをかえよっかなぁ~」


 うちの姪っ子はかなり大物になりそうだった。

 自分が諦めるのではなく、世界を捻じ曲げる選択肢を取るらしい。ここまでくるとむしろ清々しい。


「法律を変えたら、たしかに結婚できますね」


「うん! しょーらいはそーりだいじんになろっかな~」


 こんなに不純な理由で総理大臣を目指す人間を初めて見た。

 うちの姪っ子はスケールがでかかった――。

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