第百一話 子供でも女の子
「陽平くん、ブッキングということですか?」
ひめは一番そのことが気になっているようだ。
遊ぶ約束を二つしていた、なんてことはもちろんしていないわけで。
「姉さんの仕事の都合で、急遽預かることになって……ひめに一時間くらい前に連絡を入れたんだけど、もしかして見てない?」
「え? あ、ちょっと待ってください。確認してみます」
そう言って、ひめはポーチからスマホを取り出した。
電源をつけて、俺から連絡が入ってたことを確認している。やっぱり気付いてなかったようだ。
「そういうことでしたか……ごめんなさい、連絡を見落としていました」
「いやいや。俺の方も直前の連絡になっちゃったから……ごめんね?」
もう少し早く決断することだってできたのである。
迷って判断が遅れたのが悪かった。ひめが謝る必要なんてない。
「わたしも、早く来てしまったのが悪かったですね……楽しみにすぎて、待ちきれなくてつい一時間も早く到着してしまいました」
タイミングが悪かった。
そのせいで、こうやってひめと心陽ちゃんが鉢合わせすることになったのである。
「……よーちゃん、とりあえず入ってもらったら?」
立ち話をしていた俺たちを見かねたのだろう。
心陽ちゃんがそっぽを向きながらも、ひめを室内に招き入れるよう助言してくれた。
(あれ? ひめを嫌っているわけじゃない……?)
もっと攻撃的になるかと心配していたけど、今のところ不機嫌になるだけでひめに対して敵意は見せていない気がする。
心陽ちゃんは姉と似て嫉妬深い……と言うよりはやきもちを妬く、という表現の方が適切な年齢か。姉の執着心に比べたら全然愛らしいものである。義兄さんのことはたまにちょっと可哀想になるけど、それはさておき。
「ひめ、どうぞ入って。まずはリビングで……」
「だめっ。お部屋がいい。クーラーきいてるもん」
あ、いいんだ。
心陽ちゃんが嫌がるかなと思ってリビングに通そうと思ったのだが、冷房が効くまで時間がかかる。そのことを心陽ちゃんは懸念してくれているようだ。
(意外と、話が通じるのかな?)
そう期待したものの、しかし心陽ちゃんはそう簡単な女の子ではやっぱりなかった。
「お邪魔します」
丁寧に靴をそろえて、ひめを俺の部屋に案内する。
心陽ちゃんも入って、三人そろった直後のことだった。
「じゃあ、せつめーして?」
心陽ちゃんが、ぐいっと詰めてきた。
先ほどの簡単な紹介で許すわけないだろうと言わんばかりに、目が据わっていた。
学生時代の姉を思い出させる眼光の鋭さだった。こ、怖い……!
「よーちゃんっ。この女はだれなのっ?」
「陽平くん……その子は誰ですか?」
――そして、シーンは冒頭に戻るのだ。
玄関でお互いの名前は伝えた。しかし今二人が聞いているのは、プロフィールじゃないことはちゃんと理解している。
この子たちは、俺との関係性……もっと言うなら、親交の深さを知りたがっているようだった。
「ふ、二人とも落ち着いて……!」
とりあえずなだめてみようと試みる。
しかしそれは間違いだったらしい。逆にヒートアップするかのように、心陽ちゃんが声を上げた。
「よーちゃん、どーゆーこと? こはるのことは遊びだったの!?」
「なるほど……つまりわたしのことも遊びだった、ということですか?」
遊びの関係ってなんだろう?
そもそも付き合ってすらいないし、というか二人とも子供だし!
色々とツッコミどころはある。
でも、二人の剣幕にびっくりして、俺は何も言えなくなってしまった。
「せつめーして! こはるにもちゃんとしょーかいしてっ」
「わたしも知りたいです。よーへーくんと彼女がどういう関係なのか、を」
……小さくても、二人ともちゃんと『女の子』である。
まるで浮気がバレた彼氏みたいで、どうしていいか分からなかった――。
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