第百話 嵐の前の静けさ
現在時刻十三時。
約束よりも一時間早く、ひめが我が家に来ていた。
今日のお召し物は純白のワンピースである。赤いハットが差し色になっていてとてもかわいかった。持ってきているショルダーポーチも赤色である。白と赤の色合いがなんだかよく似合っていた。おめかししたんだろうなぁと思わせるファッションである。
一方、ショートパンツに黒のノースリーブという、ひめとは真逆に近いファッションをしている心陽ちゃんは、扉を開けたまま目を見開いていた。
「「…………」」
沈黙。誰も言葉を発しようとしない。
唯一音を立てているのは、ひめが持ってきていた袋だけだ。中には何やら手土産のようなものが入っている……芽衣さんが持たせてくれたのかな?
何が入っているんだろう。楽しみだなぁ――と現実逃避してしまうくらいには、俺は頭を抱えていた。
まずい。空気が凍り付いていることなんてもうとっくに気付いている。
初対面の二人が好意的でないことも、ちゃんと感じ取れていた。
「えっと……」
とりあえず、ひめを室内に招こうと声を上げてみる。
しかし、それを提案する前に心陽ちゃんが俺の言葉を遮った。
「よーちゃん、この女はだれ?」
声が、冷たい……!
いつもハキハキしていて無邪気なのに、今は感情が宿っていない。
心陽ちゃんのこんな声を初めて聞いた。びっくりした。
「陽平くん、わたしも彼女のことが気になります……いったいどなたでしょうか」
一方、ひめの声はいつも通りだった。
普段から落ち着いたトーンで話す子なので違いはない。しかし、表情がどこか強張っているのは間違いない。
仲良くなってから結構な時間が経っている。ひめの感情も少しずつ読み取れるようになっているからこそ、彼女の異変にも気付くことができた。
さて……どうしよう?
とりあえずまずは、二人の仲介を試みよう。
「この子は俺の姪っ子の晴山心陽ちゃん。姉の娘だよ」
「……そうですか」
まずはひめに心陽ちゃんについて説明する。
俺としては別に優先順位を決めているわけじゃない。この状況においては、身内の心陽ちゃんよりも客人のひめに先に説明するのが筋が通ると思ってのことだった。
しかし、心陽ちゃんはそれもあまり気に入らなかったらしい。
「こはるの方が後回しなの? ふーん、そっかー」
拗ねていた。面白くなさそうにツンとしている。
このまま放置すると本格的にへそを曲げるので、慌てて説明してあげた。
「ごめんごめん。彼女は星宮ひめ……俺の同級生で、友達だよ」
「どーきゅーせー? この女、こはると同じしょーがくせーじゃないの?」
「たしかに年齢は八歳なんだけど……飛び級してて、同級生なんだよ」
「とびきゅー? なにそれわかんないっ」
小学一年生に飛び級の概念は難しかったか。
まぁ、今はそのことについてはあまり重要ではない。
「とりあえず、友達だから今日は遊ぶ約束をしてたんだよ」
「はい。昨日から約束していました」
ひめも補足するように説明してくれた。
彼女に関しては、心陽ちゃんよりも少し冷静に見える。頭がいい子だから、状況を把握するのも早いのだろう。
「友達……むぅ」
一方、心陽ちゃんの方はまだ色々と理解できていないようだ。
というか、ひめと俺が友達であることもあまり好ましく思っていないのだろう。なんだか機嫌が悪そうだった。
はたして、これからどうなるのだろうか。
まだ何も起きていないけど、嵐の前の静けさのようにも感じ取れて怖い。
願わくば、穏便にすみますように――。
//あとがき//
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