第九十四話 意外と満更でもないようで
俺と聖さんの関係性、か。
友達であることは間違いないと思う。ただ、同性の友達ほど距離感が近くはない。顔を合わせば話すし、二人きりになっても気まずくならないが、だからといって深い関係性とも言い難い気がした。
「ひめちゃんに『結婚してほしい』とは言われているけど、そのつもりはないもんね」
「……聖さんからは、あまりそういう対象として見られてない感じはあるよ」
「私だけじゃないよ。よーへーだって同じくせに~」
……俺も、か。
まぁ、その通りではある。聖さんと恋人になりたいとか、そういうことを考えたことはない。いや、そんなことを考える余地すらないと思っていた。
俺が聖さんに見合う男性なわけがない。そう思い込んでいるからこそ、下心や邪な感情を強く抱かなくて済むのは、実は結構ありがたく思っている。
そうじゃないと、今くらいの距離感ですら維持できていない自信があった。
「でも私、男の子を好きになったことがないからなぁ。感覚がそもそも分からないかも」
「そうなんだ……聖さんってそもそも彼氏いないの?」
「今更過ぎない? 彼氏がいたらよーへーのフォークでケーキなんて食べたりしません~」
「……気付いてたなら使わないでよ。俺の方がリアクションに困るし」
「ちなみに歴代でもいないから安心してね?」
「いやいや。別にいてもいいと思うけど」
まぁ、友人の男性遍歴を積極的に聞きたいかと言われたらそれはそれで微妙なので、過去においてもいないほうが接しやすくはあるのか。
というか……どうやら意図的に食器を使われていたみたいだ。
そういうのは変に緊張してくるのでやめてほしかった。
「うふふ。ごめんね~♪ でも、使ってみて思ったけど……私、よーへーと間接キスしても普通だったなぁ」
「まぁ、気持ち悪いと思ってくれなかったことは嬉しいけど」
「そうだよね。同級生の男子の食器……普通なら使うのもいやがると思うんだけど、よーへーのは何も思わなかったみたい」
つまり、悪い印象を持たれているわけではないのだろう。
それは素直に嬉しい。やっぱり友達としては、お互いに信頼のある関係を構築できているのかもしれない。
それはそれで良かったと、自分の中で話がまとまりかけたのだが。
「まぁ、よーへーなら別にいいかな」
「え? 別にいい、とは」
「うん。結婚するのも、いいんじゃないかなぁって」
ゆ、ゆるい。
そういえばこの人、すごく性格が緩かったことを思いだした。
「異性として意識してるわけじゃないけど、よーへーのこと普通に好きだし……歴代の男の子で一番好きだと思うから、そういうのもありなんじゃない?」
そして、俺が思うより高評価なのでびっくりした。
たしかに嫌われていないとは思っていたのだが……このくらいの好感度でも、聖さんにとって過去で一番らしい。
「もちろん、これから考えが変わるかもしれないけどね。今のところ私はそこまで嫌じゃないよ~」
聖さんはどうやら、結婚するのも満更ではないようだった。
嫌じゃないから、良い。とまでは俺には考えられないけど。
(……む、難しくなってきたかもしれない)
なんというか、俺の意思次第では聖さんと結婚できる気がしてしまった。
この人、押せばたぶん受け入れてくれる気がする……それくらいの評価は既にあるみたいだ。
おかげで余計に難しくなってきた。
(ひめを選ぶか、聖さんを選ぶか……俺次第ってことなんだ)
正直なところ『俺なんかが傲慢なことを考えるな』と思考放棄したくなってくる。
でも、二人の態度を見て、このことと向き合わないのは性格上無理だった。
考えすぎとか、思い違いとか、勘違いなら、それはそれでいい。
でも、もし星宮姉妹の気持ちが本物だった場合……その時には、ちゃんと二人の気持ちに応えたい。
それが、俺が見せられる最大限の誠意だと思った――。
//あとがき//
お読みくださりありがとうございます!
もし良ければ、フォローや下の『☆☆☆』レビュー、コメントなどいただけますと、今後の更新のモチベーションになります。
これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたしますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます