第八十三話 幼女たらし
「お姉ちゃん、とりあえず落ち着いてください。よしよし」
さて、ひと悶着こそあったものの……ひめが背中をさすってあげて、ようやく聖さんが落ち着きを取り戻した。
「そ、そうだね。落ち着かないとね~……ふぅ」
「もう大丈夫かしら。そろそろ夕食を出しておくから、聖お嬢様が落ち着いたら食堂に来てね」
「はい。後でお姉ちゃんと陽平を連れていきますね」
この場で一番落ち着いているのは、もしかしたらひめなのかもしれない。
おかげで混乱していた場が急速にまとまった。
「ごめんね、ひめちゃん。私には厳しい芽衣ちゃんがよーへーにはデレデレしててびっくりしちゃった」
「たしかに芽衣さんは他人に心を開きませんが……陽平くんはとても魅力的な男の子なので、ああやってデレデレになるのも無理はありません」
「そんなことないと思うけど……」
と、俺から口をはさんでは見たのだが、高すぎる評価はこの程度で下がることがないのは知っている。
「謙虚なところも陽平くんのいいところです」
ひめが腕を組んで何やら得意げな顔で頷いていた。
まるで『さすがわたしの認めた陽平くんです』と言わんばかりである。何を言っても高評価にされるのは、それはそれでむず痒い。まぁ、嬉しくないとも言えないけれど。
ひめに褒められるのは単純に嬉しいので、つい頬が緩んだ。
……そんなやり取りを見たからだろうか。
「……よーへーはもしかして、幼い見た目の子をたらしこむのが得意なの? 大人しい顔して、本当は幼女たらしだったりする?」
幼女たらしって……酷いいいようである。
聖さんにあらぬ疑いをかけられていた。
「幼女たらし……言葉は悪いですが、言い得て妙です。たしかにわたしは陽平くんの虜です」
自分で言わないで。
まるで俺が悪いような言いようだった。
でも別に変なことはしてない。ただお菓子をあげて仲良くなっただけ……って、いや。まぁ、お菓子を餌にしておびき寄せたとも見えてくるので、すぐに考えるのをやめた。
「そういえば、陽平くんって姪っ子さんもいるのですよね?」
「え? よーへーってお兄さんかお姉さんがいるの?」
「うん。十歳上の姉がいる」
「わたしとお姉ちゃんと同じ年の差みたいですよ」
「ふーん。そうなんだ~……つまり、まだ見ぬ幼女がいるってこと?」
「変な言い方しないで……まぁ、いるけど」
ひめには前に雑談で話したのかな?
いっぱいオシャベリしているので、たぶん身の上話はだいたいしていると思う。あと、この子は一度聞いたことは忘れない体質なので、色々と覚えているようだ。
「今はたしか……六歳かな?」
「わたしの二つ年下ですね」
「……あの子とひめって二つしか離れてないんだ」
世間一般の六歳と言えば、子供の中の子供である。
ひめとは系統が違っていて、元気で活発でちょっとナマイキでおませな六歳児だ。
大人びているひめと比べると本当にただの子供である。あれで二つしか離れていないと言うから驚きだ
「やっぱり仲はいいのですか?」
「仲がいいと言えるのかは分からないけど……家に来た時はいつも遊んでるかな」
「や、やっぱり幼女たらしだっ」
「いやいや。遊び相手になってるだけだから」
変な言い方はやめてほしい。
とはいえ、振り返ってみると……たしかに、姪っ子で慣れているので幼い子とのコミュニケーションは得意なのかもしれない。
……も、もしかして、俺って本当に幼女たらしなのだろうか?
なんというか……自分の変な才能に気付きそうになったので、そのことについてすぐに考えることをやめた。
別に俺は普通である。
決して、幼女をたらしこむのが上手いわけじゃない――!
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