第八十二話 相変わらず甘すぎる評価

 俺と芽衣さんが仲良くしていることを、聖さんは腰を抜かすほどに驚いている。


「まさか幽霊!? 誰かに憑依されてるの……? ダメだよ芽衣ちゃん、正気に戻って!」


 普段はおっとりしているけど、緊急事態が起きると意外としっかりするタイプらしい。驚愕してはいるものの、声がいつもより力強くて頼もしい。

 ひめを守れるようにちゃんとすぐ隣にいるのも、聖さんらしくて好感が持てる。まぁ、発言がそもそもおかしいというのはさておき。


「聖お嬢様、私は正気だけど?」


「ううん、変だもん。だって芽衣ちゃんって人見知りでしょ? しかも男の人苦手だったよね? 配達員の人が来ても絶対に出ないくせにっ」


「そ、それは、その……陽平様の前であんまりみっともない情報を言わないで。単純に男の子に慣れてないだけよ」


「アラサーで乙女なのやめてよっ。かわいくてなでなでしたくなるでしょ!」


「こっちだって十代の小娘なんかに撫でられたくなんてないわ」


「じゃあよーへーに撫でられるのは?」


「な、なんでそんな話になるのよ。関係ないでしょう」


「当然嫌だよね? だって私と同じ十代の小僧だもんねっ」


「……陽平様ならまぁ、落ち着いてるし」


「え~!? やっぱり芽衣ちゃんじゃないっ。お前は誰だー!」


 と、芽衣さんと聖さんが言い争っているのをよそに、ひめがとことことこちらに歩み寄ってきた。


「陽平くん、あの……制服、着替えました」


 そう言って、彼女は自分の洋服をお披露目するように胸を張ってくれた。おかげでかわいいお召し物がよく見える。


 ひめは今、ピンク色のパジャマを着ていた。セットアップのルームウェア、と呼ばれるものだろうか……上は若干大きめのサイズのパーカーで、下もゆったりした長ズボンを着用している。


 制服のひめばかり見ているので、ラフな格好はとても新鮮だ。


「よく似合ってるよ。かわいいパジャマだね」


 ありのままの感想を伝えると、ひめは嬉しそうにほっぺたを押さえながらはにかんだ。


「えへへ。褒められちゃいました」


 ……やっぱりひめには緊張せず、伝えたいことを素直に言えるなぁ。

 芽衣さんにはなかなか言えなかった感想だが、ひめはやっぱり特別である。この子にはまったく緊張しないというか、むしろ一緒にいて心が落ち着くので不思議なものだった。


「陽平くんはピンク色が好きなのですか?」


「いや、特別にそういうわけじゃないかな? ひめには合ってると思ったけど」


「ふむふむ、なるほど。ちなみに何色がお好きなのでしょうか」


「好きな色かぁ……うーん、白と赤かな?」


 所有物の色は無難な黒系統が多いのだが、単純な好みでいうと白や赤が好きだ。

 なので、真っ白な髪の毛と深紅の瞳を持つひめはとても好きな色味だったりする。


「分かりました。次からその色のお洋服を着ますね」


 と、そうやってひめと戯れていたら、ここでついに二人の言い争いに巻き込まれることになった。


「ひめちゃんもおかしいと思わないのっ? 芽衣ちゃんが男の子にデレデレになるなんてありえないよ。これはニセモノだと思う!」


「で、デレデレなんてしてないわ。ただ、陽平様は話しやすいとは思っているけれど……ねぇ、そんなにおかしいのかしら。ひめお嬢様はどう思う?」


 会話の矛先がひめに向いた。

 その時になってようやく、ひめは二人に視線を向けた。相変わらずマイペースで、話しかけられるまで言い争いのことはまったく気にしていなかったのだろう。反応が少し遅かった。


「え? あ、そうですね……でも、陽平くんは素敵な人ですから、芽衣さんがデレデレするのは当然だと思います。別に不自然ではありませんが」


 ……いや、ひめ。それはちょっとどうだろう?

 素敵と言われるのは嬉しいけど、さすがに過大評価されている気がしてならなかった――。





//あとがき//

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