第八十話 やっぱりメイドはクラシック

 俺自身、とても驚いている。

 自分がまさか、こんなにメイド好きだとは知らなかったのだ。


「……私と一緒にいると目も合わないし、気まずそうだし、ずっと緊張していたから、嫌われていると思っていたわ」


 そんなことは絶対にない。

 むしろ逆だ。好きすぎるあまり、目も合わせられなかったし、気まずかったし、緊張していたのである。


 どうやら、俺も芽衣さんもお互いに『嫌われている』と勘違いしていたようだ。

 そのせいで二人ともぎこちなかったのだろう。


「メイド服……好きなのね」


 と、言って芽衣さんは軽くスカートのすそをつまんでくるっと一回転してくれた。

 俺にメイド服の全体を見せてくれているのかな?


 スカートの裾が遠心力でふわっと広がったが、普段はひざの下まで丈が長いおかげで、際どい部分までは見えない。


 露出、という点で見るとやや物足りなく感じる人もいるだろう。

 ただ、俺はこれくらいの落ち着いた雰囲気のメイドさんがとても好きである。


「素敵でしょう?」


「はい。やっぱりクラシカルなメイド服っていいですね。落ち着いていて」


「――その通りよ」


 俺の言葉に、芽衣さんは力強く頷いた。

 先ほどよりもどこか表情が明るい。なんというか……機嫌が良いように見えた。


「コスプレ衣装として販売されているフレンチタイプのメイド服を否定するつもりはないけれど……やっぱり古き良きクラシックなメイドが一番いいのよ。主張せず、影に控えて、主に奉仕するメイドが露出なんてしないものね」


 ……なるほど。そういうことか。

 途端に饒舌になった芽衣さんを見て、すぐに察した。


 この人もまた、俺と同じくメイド好きなんだな――と。


「メイド服が好きなんて、なかなかセンスがいいわ」


「あ、いや……衣服もそうなんですけど、単純に職業としても好きなんです。目立たないけど縁の下の力持ちで、なくてはならない存在じゃないですか。そういう様がすごく素敵だな、と」


 俺自身、派手なタイプじゃないから自己投影もしているのだと思う。

 いわゆる、黒子みたいな補助をしている人にすごく共感するし、親近感を覚えるのだ。


 なので、メイドさんに対してすごく魅力を感じているのだと思う。

 メイド服が好きなのも確かではあるのだが、それだけだと単純に性癖にも見えてくるので、そこは勘違いしてほしくなくて『メイドそのものが好き』と訂正したのだ。


 それに対して、芽衣さんは――


「や、やめなさい? もしかして口説いてるのかしら……そんなに好意的な発言をされると困るわ」


 ――照れていた。

 いや、もちろん口説いているつもりはなかったのだが、なんだか嬉しそうにしていたのでそれは否定せずに黙っておいた。


 芽衣さんだって成人した女性なのだから、冗談半分の発言だろうし。喜んでいるところに水を差すようで、指摘するのも気が引ける。


「あなたより十も年上なんだから、からかわないで」


「十歳!?」


 でも、ごめんなさい。

 さすがに年齢に関してはリアクションせざるを得なかった。


「ということは、つまり……芽衣さんって二十七歳なんですか!?」


「そうよ? 今年で二十八歳になるわ。あなたよりだいぶ年上なんだから、からかわないでね」


「か、からかってるつもりはないですけど……!」


 何度も言うが、芽衣さんの見た目は小学校高学年くらいにしか見えない。上に見積もってもせいぜい中学一年生である。成人しているとはいえ、二十代前半と思っていた……もちろん二十八歳が悪いわけではなくて、とにかく予想よりも大分上だったので驚いていたというわけだ。


 すごいなぁ。今年で二十八歳ということは、十歳年上ですらないのか……厳密に言うと、十一歳も年上だった――。

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