第七十四話 好印象か、悪印象か
星宮姉妹がお風呂に入ることになった。
一方俺は、彼女たちの部屋で芽衣さんと二人きりになった。
「「…………」」
夕食の準備が遅れているらしいので、てっきり芽衣さんも部屋から出ていくと思っていたが……彼女は微動だにしない。
丸テーブルのすぐ隣でちょこんと立っている。
……黙っていたらやっぱり子供にしか見えない。愛らしい顔つきを見ていたらつい心が緩みそうになるので、気を引き締めるためにも目をそらした。
子供は好きだ。もちろん、変な意味ではない。
姪っ子が家に来る時は欠かさず遊んでいる。ひめのことが気になったのも、子供好きという性分が根っこにあったからだと思う。
ただ、芽衣さんは見た目が若々しいだけで中身は大人だ。ちゃんと敬意をもって接したい。
そういうわけなので……俺も次の言葉を迷っているわけだ。
(き、気まずい)
相手が本当の子供ならもっと楽だったのになぁ、と失礼なことを持ってしまう程度には空気が重たい。二人とも立ったまま無言という状況もぎこちなくて仕方ない。
こういう時に自分の消極的な性格を強く実感する。
ひめ相手だとそういうことはないのだが、同級生にはこうやって積極的に話しかけられないのだ。そのせいで友達もあまりいないのである。
聖さんの場合は、あっちが明るくてオシャベリなので空気が悪くなることもないのだが……物静かな人が相手だと別である。
せめて落ち着くためにいったん座りたい。でも年上の芽衣さんが立っているのに、俺は座っていいのだろうか……と悩んでいたら、さすがに芽衣さんもこの沈黙が気になったようで。
「座らないの?」
良かった。あっちから話しかけてくれたおかげで、俺もようやく口を開けた。
「芽衣さんこそ、座らないんですか」
「私はメイドだもの。客人と同じ席に座るわけないじゃない」
……な、なるほど。そういうことだったんだ。
俺と同じテーブルに着くのが嫌とか、そういうわけじゃなくて安心した。
「むしろ客人のあなたが立ちっぱなしの方が迷惑なのだけれど」
「あ、はい。ごめんなさい」
訂正。怒られたので再び緊張感が戻ってきた。安心して気を緩めるのはまだ早いかもしれない。
芽衣さん、愛らしい見た目に反して言うことはハッキリ言うタイプなのだろう。曖昧なことしか言えない俺からすると、その白黒ついた性格は憧れる。
そして同時に、こうも思った。
気まずくなってさりげなく声をかけたりする態度が、大人らしいなぁと。
「アイスティー、飲んだら?」
「……いただきます」
飲み物を促されたので、まずは一口飲んでみた。
ストローを通って流れてきた紅茶は甘さが控えめである。爽やかな香りと冷たい清涼感が口いっぱいに広がってびっくりした。コンビニの紅茶とはまるで違う……生まれて初めての味だった。これが本場の紅茶、というやつなのだろうか。
「どうかしら」
「美味しいです。スッキリすると言うか、落ち着くと言うか……」
「お口に合ったのなら良かったわ。甘さが足りないならミルクやシロップを足すのもオススメよ。まぁ、この紅茶は甘さを抑えた方が香りが引き立って美味しいのだけれど」
……意外と、芽衣さんは饒舌だ。
口数が少ない人だと思っていたけど、実はそうでもなかったりするのだろうか。
未だにこの人の性格がつかめていないなぁ。
どういう人間なのか分からない。俺に対しても、好印象を抱いているのか、悪印象を抱いているのか……まだ分からなかった――。
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