第六十八話 実はメイド好きの陽平くん

「あら、どうしたの? 先に入ってても良かったのに」


 ひめと聖さんとオシャベリしていたら、車を駐車してきた芽衣さんが帰ってきた。

 星宮邸を眺めている俺たちを見て不思議そうな表情を浮かべている。


「ごめんなさい。立派な建物なので、つい見てました」


 ……まぁ、嘘はついていない。

 芽衣さんを待つ、という意味もあって足を止めていたという理由もあったものの、これは伝えなくてもいいだろう。送迎してくれた人を放置するのは少し心苦しかったのだ。


 親しい仲にある上に、雇用人と使用人という明確な関係性がある星宮姉妹ならそんなこと全然気にしなくていいと思う。でも、俺にとっては初対面で、しかも大人と高校生という関係性にすぎないのだ。失礼なことはあまりしたくない。


 とはいえ、こんなのただの自己満足なので、言うつもりはないのだが。


「……そうなの」


 ただ、芽衣さんはなんとなく察していそうだなぁ。見透かされているというか……無表情ではあるのだが、短い返事に何か裏の意図がある気がしてならない。


 小賢しい真似を、とか思われていないだろうか。

 さっきは笑ってくれたものの、やっぱり好かれているという自信がなくて判断がつかない。なので、俺も曖昧に笑うことしかできなかった。


「ひめお嬢様、聖お嬢様、どうぞ」


「はーい。ただいま~」


「陽平くん、先に入ってますね」


 まずはお嬢様二人から。芽衣さんが扉を開けて二人を中に入るよう促した。

 そして次は、俺に視線を向ける芽衣さん。


「あなたも」


「あ、はい。ありがとうございます」


 メイドさんが扉を開ける、という仕草が様になっていてつい見てしまっていた。

 なんというか、漫画とかアニメで見た光景なのですごく心惹かれるものだったのである。


 うーん……まずいな。


(メイドさんが好きってバレないようにしないと)


 誰にも言ったことはないのだが。

 実は、メイドさんが好きだったりする。いや、下心があるわけじゃない。当然性癖というわけでもない……と言い切るのはちょっと見栄も混じっているのだが、職業的な意味で尊いなぁという気持ちがある。


 主人のために尽くす、という精神性が好きだ。

 まさしく縁の下の力持ち。影で支えるという在り方がもうかっこいいし尊敬する。


 俺自身、目立つ性格ではないからなのか、自分が成功することを何よりも目指すタイプではない。むしろ、誰かの助けになることの方が嬉しいと思ってしまう。


 だからこそ、メイドさんの奉仕的な姿勢が好きである。

 あと、単純にメイド服がかわいい。うん、最強だ。


 でも、こんな目線は真面目にメイドをしている芽衣さんにしてみると邪だろう。今のところ、態度も好気的とは思えないし、自重しないと。


「失礼します」


 メイドさんへの思いは胸に隠して、扉をくぐる。

 少し緊張した。芽衣さんの近くを通ったから、というわけではない。いや、少しだけあるけど。


 緊張した大きな理由は、普通に生きていたら一生縁のないであろう星宮邸に足を踏み入れたからだ。

 俺なんかが入ってもいいのか、という気持ちがあったのである。


 そういうわけなので、恐る恐る足を踏み入れた。

 そんな俺を、玄関で星宮姉妹が出迎えてくれた。


「いらっしゃい、よーへー。ようこそ我が家へ~」


「えへへ。ついに陽平くんが遊びに来てくれましたっ」


 温かい笑顔を向けてくれる二人に、俺も頬を緩めた。

 豪華な家に緊張していたけれど……二人のおかげで、心も緩んだ。


 場違いではあるけれど、明らかに歓迎してくれているのだ。

 それがすごく嬉しかった――

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