第六十一話 八歳の少女への気遣い
なんやかんやあったものの、ひとまず諸々が落ち着いた気がする。
聖さんのおかげで、ひめとのぎこちなさもほとんどなくなった。更に、ひめの食欲も戻ったみたいで、昼食もちゃんと食べていたので安心した。
お昼休みもあと十分くらいで終わる。
三人とも食事は終えたので、次の授業の準備をするためにも教室に戻ることに。
「じゃあ、午後の授業もがんばってね~。ばいばーい」
「うん、聖さんもがんばって」
「お姉ちゃん、居眠りしたらダメですよ」
「もちろん寝ないから安心して! お腹いっぱいだけど調子いいから、今日はたぶん大丈夫。じゃあね~」
校長室で聖さんと別れた後、ひめと二人きりになった。
教室まで戻る間、またぎくしゃくするのではないかという不安もあったのだが。
「……あの量を食べた後なので、血糖値が上がって絶対に眠ると思います。お姉ちゃんは家でも食後すぐに眠っちゃう人ですから」
心配は不要そうだ。
お昼休み前とは違ってひめは自然体である。その様子を見て再びホッとした。
良かった。とりあえず、この子がいつも通りでいてくれることが嬉しかった。
聖さんのおかげである。トンカツをあーんされた意図は正直なところ未だによく分かっていないのだが、それがきっかけでひめと仲直り……ではないか。喧嘩していたわけじゃないので、その表現はおかしい。
やっぱり元通りという表現が適切だろう。
ひめとの関係が元通りになって、良かった。
「俺も今日は少し多めに食べたから、午後は寝ちゃいそうだなぁ」
「陽平くんも居眠りさんですからね。一日一回は眠っているところを見かけます」
「見られてたか」
「はい。もちろん、見てます」
会話もスムーズだ。
それが嬉しくて、もっとオシャベリを続けようとした……その時だった。
「――やっぱり、こっちの方がいいですね」
ひめが急に、足を止めた。
何かを確認するかのように胸のあたりを押さえて、俺をジッと見ている。
「ど、どうかした?」
「いえ……ただ、陽平くんとの接し方を間違えていたなと、改めて思ったので」
彼女も、ぎこちなくなっていたことに自覚はあったみたいだ。
それがあまり良くなかったことにも、気付いたらしい。
「ごめんなさい。陽平くんにも、ご迷惑をかけてしまって」
「いやいや。それは、気にしてない……というか、俺の方もごめんね」
今がタイミングだと思った。
ひめが落ち着いている今なら、ちゃんとあのことを謝れると思って、切り出した。
「ひめだけが特別、だなんて……動揺させちゃってごめん」
聖さんに伝えた言葉が、結果的にひめにまで届いて、彼女を困惑させてしまった。
そもそも、ひめが謝るような問題ですらない。俺がもっと配慮で来ていれば、この子に負担をかけずにすんだ。
だって、ひめはまだ八歳の少女なのである。
親愛と恋愛の違いも曖昧な年齢だ。言葉は選ぶべきだったし、聖さんには用心するべきだった。
結果的にひめを困惑させてしまったことを、いつかちゃんと謝りたかったのである。
「なんていうのかな。嘘の気持ちではないんだけど、少し伝え方が難しいというか……ひめを困らせたかった発言ではなかったのに」
もちろん、聖さんを恨んでいるわけでもない。
ただ、俺自身も自分のことなのに、ひめに対する気持ちに関しては、よく分かっていない部分がある。だから、遅かれ早かれいつかひめに似たような発言をして、動揺させていたことは間違いない。
だからこそ、まだ傷が浅い今のうちにこうやってひめと向き合うことができたのは、ある意味では良い機会なのかもしれない。
そんなことを、思った――
//あとがき//
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