第五十五話 不安な助け舟


 校長室で、ひめに素っ気なくされて悲しんでいる聖さんと二人きりとなった。

 傷心中のところ申し訳ないけど……ひめがいないこの状況はありがたかった。


 彼女には確認したいといけないことが一つある。


「聖さん……昨日のこと、ひめに話したよね?」


「え? 昨日のことって?」


「あのことだよ。ほら……俺が特別に思っているのは、ひめだけだよって話」


「あー、うん。話したよ~?」


 俺の問いかけに聖さんはあっさりと頷いた。

 悪気はない、というかたぶん話したことが悪いとは微塵も思っていない様子。


 とはいっても、もちろん問い詰めるつもりは全くない。文句や不平を伝えたいわけじゃなくて、単純に確認したくて聞いただけだ。


 やっぱり俺の予想は当たっていたようだ。


「そうだよね……うーん、どうしよう?」


「……もしかしてまずかった?」


 俺の悩む素振りを見て、聖さんも何かを感じたらしい。

 どうやら良からぬことが起きているぞ、と。


「昨日の夜ね、よーへーの話になって……ひめちゃんがよーへーのロリコンさんなところを心配してたから、大丈夫だよって教えてあげたの。『よーへーはひめちゃんだけが好きだから!』って」


「……それはちょっと誤解があるような」


 ひめがぎこちなくなるわけだが。

 その言い方だと、俺が彼女に恋愛感情を抱いているようにしか感じない。


 ひめのことはかわいく思っているし、好悪の感情で言うと圧倒的な好意を持っていることは事実。ただ、情愛ではないのでそこは勘違いさせたくなかったなぁ。


 あの子はまだ八歳の少女だ。

 十近く年上の異性にそういう目で見られて、平然としていられるわけないだろう。


「ご、ごめんね? よーへー、嫌だった?」


「俺は大丈夫なんだけど、ひめの様子が少しおかしくて」


「……え、そうなの? 今日のひめちゃん、いつもより元気がないなぁって思ってたんだけど、それが理由だったの!?」


 ここでようやく、聖さんも事態を把握したみたいだ。

 ひめの様子がおかしいことには気づいていたらしいが、その原因は分かっていなかったようである。


「たしかに……私を好きだって言ってる男子と接する時って、何を言っていいか分からなくなるかもなぁ」


 自分に置き換えたことで、俺とひめがぎこちなくなっていることにも共感してくれたようだ。


「そういうわけだから、どう接していいか俺も分からなくて……聖さんはどうしたらいいと思う?」


 恥ずかしながら、異性にはあまり慣れていない。

 男女関係に関しては、たぶん聖さんの方がまだ詳しいと思う。この人は容姿が綺麗なので告白された経験も多々あるだろうし……俺よりもたぶん、良い解決策を思いついてくれるかもと期待していた。


「ふむふむ。なるほどなるほど……分かった!」


 俺の相談に、聖さんは力強く拳を握って立ち上がった。

 なんだかやる気満々である。


「よーへー、迷惑かけちゃってごめんね? ここは私に任せて! ちゃんと解決してあげるからっ」


 それから力強くそう言ってくれた。

 態度だけ見るとすごく頼りになりそうなのだが……聖さんの今までを見ているので、やっぱり少し不安は残る。


(だ、大丈夫かな……?)


 この人に任せてしまっていいのだろうか。

 いや、でも彼女は男女の関係も、それからひめのことだって、俺よりもよく知っているだろう。

 だったら何も言わずに、従った方がいいかもしれない。


「よ、よろしくお願いします」


 そう自分に言い聞かせて、俺は聖さんに全てを託した。

 それくらい、ひめとの関係で思い悩んでいたのである。


 どうか、うまくいきますように――。



//あとがき//

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