第五十二話 俺、何かしちゃった?


 ――翌日。

 登校して教室に到着すると、ひめが出迎えてくれた。


「……あっ」


 昨日は真っ先に駆け寄ってくれた。

 しかし今日は少し反応が違う。俺の存在に気付いてはいるのだが、自分の席に大人しく座ったままだ。


 昨日は舞い上がっていたようなので、落ち着いたのかもしれない。

 このくらいのテンションの方が、ひめらしいというか……俺がいつも見ていたひめに近いので、戸惑いはない。


「ひめ、おはよう」


 俺から声をかける。

 もちろん、彼女からも返ってくるとばかり思っていたのだが。


「…………ぁっ」


 あれ?

 ひめの反応がおかしいような。


 昨日は人前で抱き着くほどテンションが高かった。

 あそこまでやられると照れるのでそれはそれで困るのだが、だからといって無視されるのは寂しい。


 落ち着いている……わけじゃない?

 彼女に歩み寄るにつれて、段々とそんなことを感じ始める


「よ、よ……うぅ」


 うん。やっぱり変だ。

 となりの席まで来て分かった。


 ひめは冷静になっているわけじゃない。

 むしろ真逆。顔が真っ赤で、どう見てもいつも通りではなかった。


「ど、どうかした?」


 この子に一体何が起きたのか。

 昨日までとまるで違うリアクションに、俺まで少し戸惑ってしまう。


 真っ先に心配になったのが体調不良などの可能性について。

 今は六月の中旬。梅雨に差し掛かって気温も湿度も高く、決して過ごしやすい季節とは言えない。


 風邪をひいて様子がおかしいのではと、心配になったわけだが。


「ごめんなさい……恥ずかしくて、うまく陽平くんを見ることができません」


 ひめが細くて小さな声でそう呟いた。

 その視線は俺ではなく、斜め上のあらぬ方向へと向けられている。


 目を合わせることも難しいと言わんばかりに。


 俺、何かしちゃった?


 いや、そんな無自覚無双系主人公みたいなこと言いたくないけど。

 雑魚敵Aにしかなれない俺がこんなことを考えるなんておかしいなと思いつつも、やっぱりひめの様子が気になって仕方ない。


 もし悪いことをしていたら謝りたい……とは実のところあまり想像していない。

 だって、ひめの表情が怒っているようには全く見えない。顔が真っ赤なので、間違いなく彼女は照れているだけなのだ。


 こんなに純粋で甘い好意を受けて、嫌われているかもしれないと勘違いできるわけがないだろう。


「昨日のこと、お姉ちゃんから聞きまして」


「聖さんから……?」


「はい。その、誰にでもロリコンさんなわけじゃなくて、わたしにだけ……と」


「えぇ……き、聞いちゃったんだ」


「はい。聞いてしまいました」


 そして言いやがったなあの人!

 こういう話は内々にしてほしい。少なくとも当事者に伝えるのであれば、言ったことが俺に伝わらないように工作してほしかった。


「ごめんね。他意はない、というか……いや、なくはないんだけど、決してやましい気持ちではないからっ」


 ひめにとっては告白に近い言葉だったと思う。

 なるほど。だから顔を真っ赤にしてモジモジしていたんだが……異性から『特別な存在』と言われたら、こうやって様子が変にもなるだろう。


「もちろん分かっています。でも――陽平くんがそう言ってくれて、すごく嬉しくて」


 とはいえ、やっぱりひめはいい子だった。

 ネガティブな感情はないと、態度と言葉でハッキリ示してくれていた――。



//あとがき//

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