第五十一話 ロリコンはあの子にだけ

 聖さんはとても優しい。

 ロリコンだと思っている俺に対しても嫌悪することなく、否定することなく、ちゃんと向き合ってくれている。まぁ、ロリコンは勘違いなんだけど。


 そもそもの話。

 聖さんは学園で一番の美女と噂されているくらい人気のある人でもある。本来なら俺なんて相手にされなくて当然なくらいの高嶺の花なのだ。


 違う世界の人間、という意味ではひめと似たような存在である。

 だというのに、彼女は出会ってからずっと俺と同じ目線で話をしてくれた。見下すことも、軽んじることもなく、対等な関係を築いてくれた。


 だからこそ、こう思うのだ。

 本当に素敵な人だな、と。


 ちゃんと向き合って、彼女の不安も取り除いてあげたいな――と。


「ロリコンじゃない……とは言っても、やっぱり信じるのは難しい?」


「うん」


 聖さんは俺を心配している。

 一生満たされてはならない性癖を持っている、と勘違いしている。


 もちろんそれは誤解だ。

 しかし聖さんには俺の言葉よりも、あの子の意思を何よりも信頼している。


「私なんかよりすっごく頭のいいひめちゃんがそう言ってるんだもん。ごめんね、よーへーの言葉も信じてあげたいけど……私にとってひめちゃんは、誰よりも信じてあげたい子だから」


 ひめが俺をロリコンだと思っている。だから聖さんもそう思っている。

 つまりこの勘違いを解消したいのであれば、聖さんに何を言っても無駄だ。ひめの認識を改善しなければならないのだ。


 それなら、この場で分かってもらうのは諦めよう。

 ただ、ロリコンだと受け入れてしまえば、聖さんの不安はなおも残る。


 未来永劫、子供しか好きにならないと勘違いされたままだ。


「分かった……でも、これだけは信じてほしい」


 それは好ましく思わないので、一つだけハッキリと言わせてもらった。


「ひめを可愛く思っている理由は『ロリコンだから』じゃないよ」


 邪な理由じゃない。

 下心があったから、じゃない。


「ひめだから、可愛いと思った。妹にしたいくらい、いい子だなって……そう思ってしまった。こんな感情を、他の子には抱かない」


 ひめのことを素敵な子だと思っていることは認める。

 ただ、その理由が変に曲解されないように釘を刺した。


「……ひめだけが特別だったんだよ」


 これだけは誤解されたくない。

 ロリコンだからあの子に近づいたと思われることだけは、ちゃんと否定したかったのである。


「ひめちゃんだけ……?」


 聖さんはまだ少し疑うような目をしている。

 ただ、これに関しては聖さんを完全に論破する根拠を一つ持っている。


「聖さんなら分かってくれると思う。だって、ひめは……めちゃくちゃ可愛い。それは聖さんも認めるんじゃないかな?」


 聖さんは妹のことを溺愛している。

 そんなの、ひめに対する態度を見ていれば誰でも分かる。


 たしかに聖さんは誰にでも優しい。でも、ひめだけは明らかに特別だ。

 だから、きっと彼女だって俺と同じ気持ちのはず。


「――た、たしかに!」


 ほら、やっぱり。

 聖さんは俺の言葉に大きく頷いた。反論の隙間すらない完璧な論理だと言わんばかりに、一瞬も迷わなかった。


「ひめちゃん、信じられないくらい可愛いもんね。なるほど、だからよーへーも我慢できなくなっちゃったんだっ」


 ……その言い方は微妙に違うような気もするけれど。

 とはいえ、一番伝わってほしいことは届いていると思うので、否定はせずに俺も頷いておいた。


「そういうわけだから、安心して。誰でもいいわけじゃない……ひめだけが、俺にとっては特別な存在だってことを」


 幼ければ誰でもいいわけじゃない。

 幼いからひめを好きになったわけでもない。

 幼いことを何よりも重要視しているわけでもない。


 ひめだから、ひめのことを可愛いと思った。

 これからの未来もきっと、ひめ以外の人間にこんな感情を抱くことは無い。


 そう伝えると、聖さんは……安心したように、肩をなでおろした。


「そっか。良かった……ひめちゃんだけ、なんだ」


 少しは不安を取り除いてあげられただろうか。

 ロリコンの疑いはまだ晴れていない。ただ、ひめにだけロリコンだと思ってくれたなら、この場はひとまずそれで良かった――。

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