第四十二話 チョコのパイ
さて、先ほどはチョコレートパイの実をあげたわけだが。
「実はもう一つ今日は持ってきてて」
コンビニ袋にはまだ違うお菓子が入っていた。
本当はチョコレートパイの実だけ買うつもりだったのだが、こっちも目に入ったのでつい買わずにはいられなかったのである。
「え? もう一つって……まさか陽平くん、まだ何か隠し持っているのですか? 困りましたねこれは」
「や、やめてよもう~。これ以上食べたら、本当に体重がやばいかも……っ」
「じゃあ出すのはやめとく?」
「「出して(ください)!」」
さすがに食べすぎなのかなぁと思って引っ込めようとしたら、二人が声を重ねてコンビニの袋に手を伸ばしてきた。なんだかんだ、甘いお菓子の誘惑には勝てないみたいである。
「こんなにたくさん優しくしてもらうなんて、すごく嬉しすぎて困ると言いたかっただけですっ」
「体重はヤバいけど、デザートは別腹ということで……神様、どうか許してくださ~い」
それでは、遠慮なく。
二人の了承を聞き入れて、取り出したのは――チョコのパイだった。
「ふぇ? これ、先ほどと同じような商品でしょうか? 名前は似てますが」
「でも形は違うよね? あれ~? どういうこと~?」
白い箱のパッケージを眺めながら、二人は首を傾げている。
チョコレートパイの実、と名前が似ているので同系統の商品だと思っているのかもしれない。
しかし、二つはもちろん別物だ。
「同じチョコレート系のお菓子で名前も似てるけど、全然違うからぜひ食べてみて。こっちも世間では人気の商品だから」
小学生のころ、おやつにチョコのパイが出てきたときはすごく嬉しかった。
今でも定期的に買ってしまうこのお菓子を、ぜひ二人にも体験してほしいと思って購入したのである。
「いいのですか!? ありがとうございます……すごく楽しみです♪」
「わ、私はちょっとだけにしておくね? これ以上食べたらさすがにまずいけど……ちょ、ちょっとだけだから!」
そういうわけで、箱を空けて中から手のひらサイズのチョコのパイを取り出した。
個包装された一つは、聖さんに。それからもう一つは自分の手で開封して、ひめにそっと差し出した。
先ほどみたいに勢いよく食べるかなと思っていたのだが、今度のひめは少し冷静だったらしい。まずはじっくりと観察するために、くりくりのおめめを近づけてきた。
「これは……チョコレートパイの実とはまったく違うお菓子ですね。チョコレートでコーティングされてて、中は……ふむふむ、これは食べてみないと分からなそうです」
そう言って、ひめがチョコのパイをかじろうと口を開けた。
しかし、彼女の口内はそこまでサイズが小さいわけで……。
「むぐっ」
ちょこんと、端っこの方を少しかじっただけに終わった。
食べられてはいるけど、食べにくそうである。
「もぐもぐ……これはスポンジ生地でしょうか? なるほど、チョコケーキのお菓子みたいなものですねっ。中にはクリームも入っていて、たまらないです。すごく美味しいです!」
しかしながら、味にはすごく満足してくれていそうだった。
「あ、ひめ。ちょっと待って……よし、いいよ」
まだ食べたそうにしているけど、このままは食べにくいと思うので……とりあえず、チョコのパイを一口サイズにちぎってから、ひめの口元に差し出した。
「えへへ♪ 陽平くんったら……そんなにわたしのことを考えてくれるなんて、すごく嬉しいです。それでは、お気持ちに甘えて――いただきますね♪」
彼女はやっぱり、俺の好意を喜んで受け取ってくれた。
こちらの指ごと食べるように、チョコのパイのかけらを頬張るひめ。
甘いお菓子を食べている彼女を見ると、こっちまで甘い気分になってくる。
それくらいひめは、幸せそうな顔をしてくれていた――。
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