第四十三話 ぷにぷにが好き
『もぐもぐもぐもぐ』
ひめの口がもぐもぐしている。
チョコのパイを食べている彼女は、まるでリスみたいにほっぺたを大きく膨らませていた。かわいい。
ただ、少し量が多いのかもしれない……半分ほど食べたあたりで、ひめのもぐもぐペースが緩やかになった。
「んっ……美味しいのですが、お昼ごはんも食べたのでちょっとお腹いっぱいになってきました」
ひめはまだ8歳の子供である。
体も小さいので、高校生の俺に比べたら胃も小さいだろう。
「残したら? 無理して食べると体に良くないし」
「でも、せっかく陽平くんにいただいたものですから、もったいないです」
いい子だなぁ。本当に。
とはいえ、俺としては逆に気を遣わせているみたいで、無理させる方が心苦しかった。
「じゃあ、残りは俺が食べようか? まだ未開封のものが何個か残ってるし、家に持って帰って食べてよ」
「いいんですか? 陽平くんったら……やっぱり優しいです♪ じゃあ、甘えさせてもらいますね。ありがとうございますっ」
そういうわけで、チョコのパイの残り半分を俺が食べた。
うん。やっぱり甘くて美味しい。ただ、食べすぎると少し重たくなるので、一個くらいがちょうど良いと俺は思っている。
……そういえば、聖さんはどう感じているんだろう?
ひめに食べさせることに夢中で、聖さんの様子は見ていなかった。口に合っていればいいんだけど――と、彼女の様子を見てみると。
「……まずい」
あれ? もしかして、好みじゃなかっただろうか。
それなら申し訳ないなと思って謝ろうとしたのだが、その前に彼女はこう言葉を続けた。
「まずいよ……美味しすぎて、手が止まんないよぉ」
ああ、なるほど。
そっちの『まずい』だったか。
美味しくないという意味の『不味い』ではなくて、ほっとした。
「二個も三個も食べたたら絶対に太っちゃうやつじゃん! よーへーは私を太らせたいの? これ以上体重が増えたらぷよぷよになっちゃうんだからねっ」
……そ、そうかなぁ?
聖さん、十分に痩せているように見えるんだけど。
まぁ、うん。一部分は確かに大きい。具体的に言うと胸元とかふとももとかそのあたりはぷにぷにしてそう――って、まぁそれはさておき。
「お姉ちゃん、もう諦めたらどうですか? 今でも別に太っていないですし、適性の体重なのですから、そのままでいいと思います」
「で、でもぉ……モデルさんみたいに痩せたいなぁ~って」
「気持ちは分からなくもないのですが……あ、ちなみに陽平くんはどうですか? 痩せている方が好みだったりするのですか?」
「俺は別に、体形はそこまで気にならないかな?」
異性の好み、という点でも体形をそこまで重視したことがない。
そもそも、好かれるとすら思っていないので、見た目の好みなんてあまり気にしたことがないとも言えるか。
「えー、本当に? よーへー、私にもっと痩せろって思ってない?」
「いやいや、そんなこと思ったことないよ……い、今のままでも十分じゃない?」
俺としては、結構勇気を振り絞った言葉だったりする。
今のままでも十分って、可愛いと言っていることと同義にならないだろうか?
俺なんかが評価しているみたいであまり快く思わないかな? このあたり、自信がなくて言葉選びに迷うなぁ。
でも、まぁ……聖さんがそんな、悪いようにとらえることはないか。
だってこの人は、ひめのお姉ちゃんだ。あんなに素直な子の肉親が、悪い人なわけがない。
「つまり、よーへーはぷにぷにでもいいってこと?」
「まぁ、そうなるかな?」
「……ひめちゃんみたいにぷにぷにでもいいってこと?」
「え? そうなるの?」
悪いようには捉えていない。
でも、その言い方だと、ひめみたいな幼い体型の方がいいと思われているみたいで、なんだか釈然としなかった――。
//あとがき//
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