第三十八話 若い二人で
お昼ごはんを食べに、姫と一緒に校長室へ向かおうとしていた直前のことだった。
教室から出ると、俺たちを待ち構えるかのように聖さんがいたのである。
そして彼女は先ほど、ひめには聞こえないように俺の耳元でこんなことを囁いた。
『――ロリコンに可愛い妹は渡さないよ?』
ゆるふわな印象の強い聖さんにしては冷たいトーンの声である。
恐らく、彼女は少し怒っている。その証拠に笑顔がいつもより強張っている気がした。
「あれ? お姉ちゃん、どうかしたのですか?」
一方、ひめは聖さんの登場にコテンと首を傾げていた。かわいい。
「わたしたちを待っているなんて珍しいです。お姉ちゃん、いつもは校長室に直行してましたよね?」
「ごめんね~。ちょっとだけ、よーへーに話があるだよね……ん?」
そう言って聖さんは、ひめの手と繋がっている俺の手を視認するや否や、目を細めて俺に視線を向けた。
まるで睨みつけているかのように、眼差しが冷たい。
「ふーん、なるほどね~」
うん、聖さんも間違いなく俺を勘違いしている。
ただし、ひめと違う点は――俺がロリコンだということに『否定的』であることだ。
「ひめちゃん、ごめんだけど先に校長室に行っててくれるかな~? ちょっとだけよーへーに話があるの。二人きりにしてほしいなぁ」
「ふぇ? なんで……って、ハッ!?」
聖さんの指示に、ひめは最初少しだけ嫌そうな顔をした。
しかしそれは一瞬のこと。すぐに何かを察したかのように目を点にして、それからニマニマと愛らしい笑みを浮かべた。
「――わかりました。気が利かなくてすみません……えへへ、お姉ちゃんもついに愛の覚悟を決めたようで何よりですっ」
あ、これ分かってないな。
たぶん『聖さんが俺と二人きりになってイチャイチャしたいから』ひめを校長室に行かそうとしている、と勘違いをしているのだと思う。
「ち、違うよ? ひめちゃん、勘違いはダメだよ~?」
「はいはい、わかっています。あとは若いお二人で楽しんでください♪」
「若いって、ひめちゃんの方が幼い――って、もう! ひめちゃんったら、まったく……!」
ひめって思い込んだら話を聞いてくれないんだよなぁ。
聖さんに対してもそうらしい。今も一方的にオシャベリをした後、テクテクと可愛い効果音を鳴らしながら歩き去って行ってしまった。かわいい。
「これも全部よーへーのせいだからね!? 勘違いしないでよっ」
「え? お、俺のせい?」
「そう! よーへーが全部悪いっ。だから、私は別に好きで君と二人きりになったわけじゃない――って、これなんだかツンデレっぽくてヤだ!」
「そんなこと言われても……」
ツンデレなんて思っていないよ。
とにかく、あのゆるゆるなお姉さんがツンデレっぽくなっちゃうくらいには、動揺しているみたいだった。
「で、よーへー? 君はロリコンなの? 変態さんなの? 噂で聞いて私はすごくびっくりしたんだけどな~? しかも『純愛だからセーフ』って、そんな言い訳が通ると思ってるのかなぁ~?」
さて、ここからが本題である。
聖さんが二人きりを所望した理由。それはもちろん、このことについて話したかったからだろう。
「ひめちゃんの姉として、私にはあの子を守る義務があるの。だから、ちゃんと答えてくれる?」
そして、彼女は俺を糾弾したいわけじゃないことも、ちゃんと気付いている。
聖さんは愛する妹を守るために俺を警戒しているのだろう。姉妹の愛情を感じて、詰められている立場なのに俺はなんだか嬉しかった。ついつい、ほおが緩んでしまう。
「ちょ、ちょっと、なんで笑ってるの? こわっ」
ただ、今は状況がとにかく悪かった。
俺が笑ったのが不気味だったのだろう。聖さんはゾッとしたように青ざめている。
「ち、違う違う! 実は――」
ともあれ、全部勘違いなので俺はちゃんと説明を始めるのだった。
大丈夫だよ。安心して欲しい。
俺は絶対にロリコンじゃないから――!
//あとがき//
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