第三十五話 良くも悪くも周囲を気にしない子なので
ひめが俺のことをロリコンだと勘違いしている。
それを否定したいところなのだが、残念ながら学校に到着してしまったので説明する時間は確保できなかった。
「お、おい! 星宮さんが男と手を繋いでるぞ!?」
「あのモブ顔の男子って誰? 星宮さんの親戚とか?」
「引率されてるみたいでかわいいっ」
「俺も引率してぇ……!」
そして案の定、生徒たちに見られていた。大抵は好奇心や興味本位だと思うけど、一部ちょっと怪しい人間がいる気がする。最後の奴、お前には絶対ひめを近づけさせないからな!
と、いうのはさておき。
ひめは目立つ存在なので目立つのは仕方ないのかもしれない。彼女も注目を集めることに慣れているのか、あるいは鈍感なのか……いずれにしても、周囲の目をまったく気にしていなかった。
「陽平くん……引率してるってやっぱりロリコンさんとしては嬉しいのですか?」
「ロリコンさんじゃないけどね」
「えへへ。そういうことにしておきますねっ」
うーん。なかなか分かってもらうのが難しいなぁ。
厄介なのが、ひめは俺がロリコンであることをちょっと喜んでいることである。もちろん勘違いなのだが、嬉しそうなので強く否定するのに気が引けるんだよなぁ。
まぁ、後で時間がある時にゆっくり説明すればいいか。
今は特に弊害もなさそうなので、一旦そのことは置いておくことにして。
「前々から思ってたんだけど……ひめって周囲のことをあまり気にしないタイプだね」
玄関で上履きをはいて、教室へと向かう最中のこと。
靴を脱ぐために手を離したのに、わざわざまた繋いできて彼女の手を握りなおしながら、気付いたことをふと口に出していた。
「そうなのですか? 自分では分からないです」
「うん。だって今もみんなに見られてるのに平然としてるし」
周囲のことが見えていない、わけではないだろう。
見られていることを理解した上で、自分の話題が出されていると認識しているにもかかわらず、ひめはそれをまったく気にしていない。
さっきだって『引率されているみたい』というワードをちゃんと聞いていた。だというのに手は繋いだままだったので、注目されようとどうでもいいという感じが伝わってきたのだ。
「ふむふむ……陽平くんはわたしのことをよく見てくれているのですねっ。気にかけてもらえてすごく嬉しいです♪」
でも、俺の言葉にはすごく敏感なんだよなぁ。
今だって好意的な思いを素直に受け止めて、機嫌がすごく良さそうだ。
だから鈍感、というわけでもない。
それなのに周囲のことを気にしていない素振りが、なんだか不思議だったのである。
「言われてみると、たしかにそうかもしれません。わたしは他人のことをあまり気にしない……というか、誰かに見られていることに何も思いません。恐らく、これは『慣れ』だと思います」
俺が気になっているからだろう。
ひめは指をあごに当てながら、明晰な頭脳で理由を考察してくれていた。
「慣れ?」
「はい。わたしは時折メディアに出ることもあるので、見られることに慣れちゃったのだと思います。どこに行っても動物園のパンダさんみたいな感じになりまして……いちいち気にしちゃっていたら大変です」
その説明は、すごく納得のいくものだった。
よくよく考えてみると、ひめは今以上に注目を集める場を何度も経験しているわけだから、この程度を気にするわけないのか。
普通スケールで考える俺には想定できない事情だった。
だから彼女は、学校で周囲の目線なんて気にしないのである。
「むぅ。残念ながら教室に到着しちゃいましたね……手を繋ぐ時間は終わりです。仕方ないので、ここからはおひざの上に座りますねっ」
そして、見られることに慣れすぎてるせいで、教室だろうとこうやって平気で触れ合ってくるのだろう。
「……ロリコンさんの陽平くんは、わたしがおひざの上に座っていたらやっぱり嬉しいですか? 任せてください、陽平くんの気が済むまで尽くしますからねっ♪」
うん。改めて俺は、決断した。
ひめの勘違いは、ちゃんと訂正しておかないといけない。
人の目を気にしない彼女は、いずれすごく大胆なことを人前でやりそうだから――。
//あとがき//
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