第三十四話 星宮姉妹二毛作戦

 ひめが俺のことを誤解しているような気がしてならない。


「実は少し気になっていたのです。陽平くんって、どうしてわたしみたいな無愛想で鼻につく子供に優しくしてくれているんだろう?って……つまり『ロリコンさんだから』ということでしょうか?」


 ほら、やっぱりそうだ!

 どうやらひめは、前々から疑っていたみたいである。


「あ、もちろん悪いことではないと思います。陽平くんがちょっと変態さんだからこそ、わたしみたいなかわいげのない背伸びした子供だろうと受け入れてくれたわけですし……むしろ、ロリコンさんでありがとうございますっ」


 いやいや。違うから。

 俺はそういう人間じゃないよ!


 と、否定したいのはやまやまなのだが。


「――ごほっ、ごほっ!」


 あまりにもな発言だったので、喉がつまってせき込んでしまっていた。おかげで何も反論できない状態なので、ひめが好き放題言っているというわけだ。


「陽平くん、大丈夫ですか? ……あ! もしかして、図星だから動揺しているのですか? 大丈夫ですよ、わたしはロリコンさんが悪いことだとは思いません。安心してくださいね」


 そしてひめは、都合のいいように俺の状態を勘違いしていた。

 察しが良すぎる弊害、なのだろうか……普段なら気が利くことを嬉しく思うかもしれないが、今回に限っては大きく誤解しているので困ったものだった。


「しかし、こうなってくると困りましたね……陽平くんにお姉ちゃんと結婚してもらって妹になるプランを見直す必要がありそうです。わたし以外の幼い子に手を出されても困りますので――ふむふむ、それならこういう感じにしましょうか」


 プランとか見直さなくていいから!

 と、強めに言いたいのに、口からはごほごほという乾いた咳しか出てこない。


「わたしが子供でいるうちは、陽平くんの気が済むまでイチャイチャします。でもいずれ大きくなると思うので、陽平くんの対象外になった時にお姉ちゃんと結婚する――ということでどうでしょうか? ロリコンさんは悪いことではありませんが、世間的には良いことではありません。なので、わたしが思う存分、気が済むまでお相手します。それが終わったらロリコンさんを卒業してもらって、真っ当に生きるようがんばりましょう!」


 あと、ひめ……君、なんでちょっと嬉しそうなの?

 ロリコンはもっと警戒しないとダメだよ!

 それなのに彼女は、懐が大きすぎて逆に受け入れていた。


「この『星宮姉妹二毛作戦』はいかがでしょうか?」


 なんだその酷い作戦名は……!

 こんなのを受け入れるわけがなかった。いくらなんでもクズすぎるというか……そもそも、俺はロリコンじゃないので根本から間違えている。


「――ダメに決まってるから!」


 そして、その頃になってようやく咳が収まったので、やっと否定することができた。


「ダメ、ですか……わたし、がんばりますよ? 陽平くんが満足するくらい尽くしますから、どうにかロリコンさんを卒業することはできないでしょうか?」


「そこじゃない。ロリコンを卒業するのがダメと言ってるわけじゃなくて!」


「そ、それでは……うーん、困りましたね。成長を止める新薬の開発でもしてみましょうか? しかし、できればお姉ちゃんと結婚してほしいといいますか……お姉ちゃんは陽平くんじゃないと任せられないというか、あの――」


「ひめ? あのね、俺は『普通』の人間だからね? 良くも悪くも普通で、そういう変な性癖は持ってないよ?」


 と、否定しながらも、ひめの意外な一面を見て少し驚いていた。

 この子、暴走すると少し歯止めが利かなくなるタイプなのかもしれない。


 あと、さっき自分のことを『無愛想で鼻につく』とか『かわいげがない』と言っていたので、自己評価もかなり低いみたいだ。


 そのあたりは、ちゃんと否定しておきたいなぁ。

 あと、俺がロリコンじゃないということも、ちゃんと分かってもらわないと――!

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