第三十三話 ひめちゃんはおっきくなりたい


 ひめとオシャベリしながら歩いていると、あっという間に学校に近づいてきた。

 もう数分も歩けば到着するだろう。通学する生徒の数も増えてきており、そのせいでひめと手を繋いでいる俺はかなり目立っていた。


 ひめは学校でもかなり有名である。数日前までは誰ともかかわることなく、孤高の存在として周囲から畏敬の念を集めている存在でもあった。


 だからこそ、俺みたいな大して特徴のない人間が隣にいると、違和感が強いのだと思う。

 やっぱりびっくりするよなぁ……注目を集めていて、少し居心地が悪い。


 ひめも視線に気付いているようで、人だかりの方を見ている――と思ったら、そうでもなかったようで。


「……6年生くらい、ですね」


 彼女がまっすぐ見つめていたのは、道端を歩く同世代の小学生だった。

 注目を集めていることはまったく気になっていないようである。そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ランドセルを背負う二人組の女子をジッと見つめていた。


「近くに小学校でもあるのでしょうか」


「うん。この道をもう少しまっすぐ進んで曲がると、古い小学校がある」


 このあたりは地元なので、地理もだいたい把握している。

 というか、その小学校はよく知っている場所でもあった。


「陽平くん、詳しいですね」


「まぁ、俺の出身校だから」


 数年前まで通っていた母校のことを知らない人はいないだろう。


「そうなのですか? なるほど……ふむふむ」


 ひめは興味深そうに頷いて、足を止めた。

 それから、対面の歩道を歩く小学生をジッと見つめながら、こんなことを呟いた。


「……わたしも四年後にはあれくらいお姉さんになれるでしょうか」


 そう言って、ひめは俺と手を繋いでいない反対側の手で自分の胸を抑えた。

 あれ? ひめが少し不安そうである……見た目こそ子供だが、彼女は十分落ち着いている。年齢を重ねれば、相応にお姉さんになっていくだろうし問題ないと思うのだが。


「大丈夫だよ。ひめは立派なお姉さんになれると思うけど」


「本当ですか? 今は兆しがないのですが、立派になれるのでしょうか?」


「え? いやいや、兆しというか……今でも十分じゃない?」


 十分、お姉さんらしい素養はあるような。

 少なくとも、実姉の聖さんよりはしっかりしているのだから、12歳になればしっかりしたお姉さんになりそうだと思う。


 と、いうことを俺は思っていたわけだが。

 どうやら、俺とひめの認識は少し違っていたみたいだ。


「じゅ、十分に感じているのですか!? それは嬉しいのですが……あの、さすがにまったく膨らんでいないので、ちょっとびっくりしちゃいました」


 ……え?

 まったく膨らんでいないって、何が?


 一瞬、話の意味が分からなくなってひめの方をもう一度しっかりと見つめた。

 彼女はぷにぷにのほっぺたを赤くして、それから先ほどと同じように自分の胸を抑えて……ん? 胸?


 胸って――つまり、そういうこと!?


「よ、陽平くんってやっぱり、あれなのですか? ロリコンさんですか? それは、その、対象に入っているのは嬉しいのですが……永遠にこの容姿ではいられないので、いつか期待に応えられなくなるかもしれませんよ?」


「違う! そういう意味じゃなくてっ」


 誤解だった。

 お姉さんっぽくなりたいって、内面的な話じゃないのか!


 どうやらひめは肉体的な話をしていたらしい。それに気付いて、なんだかすごく恥ずかしかった――。

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