第二十八話 甘えたがりの年齢だから
聖さんが、辛そうに俯いている。
……しかしそれは、一瞬のことだった。
「――あ! な、なんかごめんね~……よーへーは話しやすいから、つい変なこと言っちゃったかもっ。忘れていいよ。というか、忘れて!」
我に返ったかのように、笑顔を作って首を横に振っている。
ただ、先ほどのシリアスな顔を見てしまっている以上、何もなかったことにはできないわけで。
「……ひめはきっと、聖さんが心配なだけじゃないと思うよ」
まだまだ、星宮姉妹とは浅い関係ではある。
だけど、それでも第三者として気付くことはあるのだ。
「そ、それはもういいよ~。大丈夫、慰めてもらわなくても、私は元気だからっ。ほら、おバカだから元気だけが取り柄なんだよ?」
「うん。そうやって、明るく振舞ってくれるお姉ちゃんが――ひめは好きなんじゃないかな?」
別に慰めているつもりはない。
ただ、勘違いしてほしくなくて、ちゃんと思っていることを伝えたかった。
「心配しているのも事実だとは思う。でも、それだけじゃなくて、自分のことを可愛がってくれる優しいお姉ちゃんと一緒にいたい――っていう理由もあるよ」
ひめは八歳にしては随分と大人びている。
ませているとか、背伸びしているとか、そういう意味ではなくちゃんと『大人』なのだ。
しかし、大人びているだけで、実際はただの子供なのである。
「大好きなお姉ちゃんから離れてまで、海外になんて行きたくなかったんだろうね」
きっと、そうだと思う。
聖さんの話を聞いていると、どうも……星宮姉妹の両親は厳しいようだ。
だからこそ、姉妹は二人で助け合って来たのだと思う。
聖さんはきっと、常に明るく振舞ってひめを元気づけようとしてきたはずだ。
姉として、妹を庇ったり、守ろうとしてきたと思う。
そんな姉がひめはすごく大好きなのだ。
まだ八歳だし、身近な人に甘えたがる年齢でもあるわけで。
そう考えると、
「負担になんてなってないよ。聖さんは、ひめにとってむしろいてくれないと困る存在に見えるけど」
聖さんの罪悪感は不要だと感じずにはいられなかった。
あと、単純に星宮姉妹には仲良していてほしいという気持ちもある。
そんなわけで、俺の考えを伝えたわけだが。
「…………」
聖さんは、無言だった。
何も言わずに彼女は、ひめの机を眺めて……それから、急にガバッと机に伏せた。
「――泣いてないもん」
「何も聞いてないのに」
「な、ないてないから……ぐすっ」
もしかして、結構響いたのかな?
だとしたら、すごく嬉しい……というより、安心した。
(なんだかんだ、薄々分かってはいたのかな?)
ひめの愛情を理解していなければ、俺の言葉がこんなに刺さることは無いと思う。
否定の感情だけでネガティブになっている場合は、いくら肯定の言葉を並べてもまともに受け取ってくれなかっただろう。
つまり、星宮姉妹は少しだけすれ違っていただけなのだ。
いや、ひめの方は素直に好意は伝えていたはずなので、単純に聖さんが不安になっていただけかもしれない。
これならきっと、この先も二人は仲良くやっていくことだろう。
とりあえず、彼女たちに軋轢が生まれなくて良かった――。
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