第二十六話 ゆるふわポンコツお姉さん


 教室に戻ると、聖さんがいた。

 ひめの机で寝ている彼女は、腕を枕にして目を閉じている。顔を横にしているので無防備な寝顔が見えた……あと、大きな胸が机に押し付けられて窮屈そうだった。


 あ、あんなに潰れて……苦しくないのだろうか。


「むにゃむにゃ。よーへー、もうだめぇ。こんなに食べられないよぉ」


 いや、寝てないな。寝言にしては言葉がハッキリしている。俺が来ていることにも気付いているらしい。

 聖さんは目を閉じているだけで、ちゃんと起きてる。


「ぜっとぜっとぜっと」


「ゼットっていう寝言は聞いたことないよ」」


「……よーへーのすけべぇ~」


「スケベって……何もしてないから」


「私の潰れたおっぱい見てるくせに~」


 まぁ、見てないとは言えないけれども。

 別にそういう目で見てたわけじゃない。うわ、でっか!くらいにしか思ってないので、言いがかりはやめてほしい。


 まぁ、それはさておき。


「聖さん……なんでいるの?」


「ん~? それはね~……なんでだっけ?」


 寝たふりも飽きたのか、聖さんはようやく体を起こしてくれた。

 ただし、まぶたがちょっと半開きである。起きてはいたのだろうけど、もしかしたらさっきまでは本当に寝ていたのかもしれない。意識がぼーっとしているようだ。


「たしか、生徒会の仕事が終わって~……うーん、なんでここにいるのかにゃ~? よーへーはなんでだと思う?」


「その理由は聖さんにしか分からないよ」


「あ、分かった~。私、よーへーに会いに来たんだよ~」


「な、なんで?」


「……なんでかなぁ?」


 や、やっぱり緩いなぁ。

 聖さんは他の人にない独特な空気感を持っている。

 会話の速度もかなりマイペースで、つかみどころが全くなかった。


 言葉は通じていると思うんだけど、会話が成立していない気がする。


 それに……そういえば、二人きりは初めてだ。

 さっきはひめがいたおかげで、普通に接することができた。でも、あの子がいないので、ちょっとぎこちなさがあった。


 まぁ、そう思っているのたぶん俺だけか。

 聖さんは相変わらずふわふわしている。俺を見て緩い笑みを浮かべていた。


「俺に用事でもあったの?」


「ないよ~」


「ないんだ……俺に会いに来たのに?」


「……あ、思い出した~。そういえば私、ひめちゃんを待ってたんだよ~」


 こ、この人……すごく適当だ!

 俺に会いに来たって言われてちょっとドキドキしたけど、どうやら嘘だったらしい。


 まぁ、このドキドキは恋ではなく、びっくりのドキドキだったので別にいいんだが。


「そうだ。私、ひめちゃんを待ってたらなかなか来なくて、仕方ないから寝てたんだよ~」


 たしか、昨日はひめが聖さんを待っていたっけ。

 でも、おかしいなぁ。


「……ひめは今日、用事があるから早めに帰ったけど」


「え」


 そうなのだ。ひめは研究の打ち合わせがあると言って帰宅している。

 ひめならそのことをちゃんと伝えているだろう……聖さん、もしかして忘れてたのでは?


「わ、わわわ忘れてたわけじゃないからっ」


 まだ聞いてないのに。

 言い訳がましくそう言った聖さんの目はすごく泳いでいて、嘘をついていることがバレバレだった。


 あからさまに慌てている聖さんを見ていると、どうしても久守さんの言葉を思い出す。


『お姉さんって……ものすごく――おバカらしいっす』


 見た目はすごく綺麗で、勉強もできそうなのに。

 やっぱり話していると、どうしても……聖さんは、ポンコツな感じがして仕方なかった――。



//あとがき//

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