第十八話 無邪気な幼女
――昼食を食べ終えて。
豪華な食事に大満足……というよりは、庶民の胃には刺激が強すぎて味こそよく分からなかったものの、美味しかったことには変わりない。
「ごちそうさま。ありがとう、夢みたいな味だったよ」
「夢だなんて、大げさですっ……でも、喜んでくれたならすごく嬉しいです」
「うふふ♪ やっぱり男の子はいっぱい食べられてすごいね~」
「はいっ。久しぶりに残さずすみましたね」
……そうなのだ。二人とも全部は食べきれなかったので、残ったものは俺がもらったのである。
別に、食事の量が過剰に多かったわけではないと思う……成長期の男子にとってはちょっと物足りないくらいだったので、二人に分けてもらえたのはありがたかったのだが。
でも、ひめと聖さんはもしかしたらお腹がいっぱいなのかもしれない。
そうなると、俺が持ってきたこのお菓子は食べきれないような気がする。
まぁ、この場で食べきる必要もないので、もし食べる気分じゃなかったらあげればいいのか。
……と、そんなことを考えながら、俺はポケットからキノコとタケノコのお菓子を取り出した。
箱じゃなくて袋に包装されているタイプのやつである。二種類もあるので、このくらいがちょうどいいと思ってこちらを購入したのだ。
「実はデザートを用意したんだけど」
「――っ! こ、これは昨日言っていたあれですか!?」
「うん。あれだよ」
「わぁっ♪ 嬉しいです、ありがとうございますっ」
取り出したお菓子を見て、ひめはキラキラと目を輝かせた。
あまりにも嬉しいのか、ソファの上で体がゆらゆらと揺れている。足もぷらぷらと揺らしていて、めちゃくちゃかわいい反応を見せてくれた。
「お姉ちゃん、あれですよ! 昨日お話した、幸せのお菓子です!!」
「……ふーん、これがそうなんだ~。でも私、おなかいっぱいなんだよね~」
テンションの上がったひめとは対照的に、聖さんの方はさほど興味がないように見える。
発言から察するに初見ではありそうだが、満腹ということもあって食べる気分ではないみたいだ。
「あげるから、後でお腹が空いたときにでも食べて」
今、無理に食べる必要もない。
そう思っていたのだが、ひめは首を横に振った。
「いえいえ! デザートは別腹ですっ。それに、陽平くんの用意してくれたものですから、ありがたくいただきます♪」
どうやら、食べる気満々のようである。
特にキノコの方が気になっているようで、先ほどから視線がまったく外れなかった。
「……お~。ひめちゃんがこんなに興奮してるなんて、初めて見たかも」
「それくらい美味しいのですっ。お姉ちゃんはタケノコとキノコ、どっちがいいですか?」
「え? まぁ、どっちでもいいよ~」
「じゃあわたしが好きな方をもらいますね! どっちがいいでしょうか……お姉ちゃん、一個だけ食べ比べしてもいいですか? いいですよねっ!」
「うーん。別にいいけどぉ……」
ひめの様子がおかしくなったせいか、聖さんも少し気になっているようだ。
とりあえずひめは今すぐに食べたいらしいので、キノコの包装紙を開けて一つ取り出してあげた。
「とりあえず見せてくださいっ」
渡そうと思ったのに、ひめは待ちきれないのか俺の手ごと掴んで凝視していた。
小さな手が俺の指をにぎにぎしている。
「キノコです。たしかにこれはキノコですね……ふむふむ? たしかに、陽平くんが昨日言っていた通り、柄の部分の生地がちょっと違います!」
「うん。タケノコはクッキー生地で、キノコはクラッカー生地なんだって」
「なるほど……ちょっと見比べてみたいですっ。タケノコの方も出してもらっていいですか?」
まずはじっくりと観察を始めたひめを見て、すごく微笑ましい気分になった。
好奇心旺盛というか、研究者気質というか……無邪気な彼女を見ていると、やっぱり和むなぁ――。
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