第十五話 おっとりだけど頑固
校長室にて。
俺は初めて、ひめの姉――星宮さんと顔を合わせていた。
「こほんっ……私は星宮聖です。ひめちゃんのお姉ちゃんをやってま~す」
丁寧にあいさつをしてくれたので、俺も少し居住まいを正して軽く会釈した。
「ど、どうも。俺は――」
「大空陽平くん、でしょ? ひめちゃんから聞いてるよ~」
こちらも自己紹介をしようとしたのだが、彼女はどうやら知ってくれていたらしい。
ひめが、俺のことを話していたようだ。
「えっと、ひめには良くしてもらっていて……!」
「いえ、良くしてもらっているのはわたしですよ?」
「うふふ。うちの妹を可愛がってくれているみたいで、ありがとうだよ~」
……軽く話してみただけ、ではあるけれど。
しかし、今のところ星宮さんの態度はすごく柔らかい。
もしかしたら、妹に近づいた俺を警戒しているかもしれないと思っていたけど、その心配は杞憂だったみたいだ。
「昨日、この子が君の話を楽しそうにしてくれてから、ずっと気になってたの。まさか、あのひめちゃんから男の子の話を聞くなんて思ってなかったから、びっくりしちゃった~」
「お、お姉ちゃんっ。そんなに話してないですからっ」
「え~? 夕食の時間だけじゃなくて、お風呂に入ってるときもずっと『陽平くんが~』って話ばっかりだったのに~」
「ち、ちがっ――! 陽平くん、そこまでじゃないですからっ。お姉ちゃんは話を大げさにする癖があるんです!」
「うふふ。ひめちゃんったら、照れててかわいいなぁ♪」
……なんというか、星宮姉妹らしいやり取りだと思う。
ひめも、姉の前では自然体でいられるのだろう。いつもより表情豊かで、こうしてみるとやっぱり幼い子供だと言うことを強く実感した。
噂には聞いていたけど、姉妹仲はかなり良さそうである。
あと、姉の方は噂以上におっとりしているというか……すごくふわふわしている人だった。
「あ、おなか空いてるよね? ごめんね~、そろそろお弁当を食べよっか。ほら、二人とも座って~」
指示通り、ソファに座ると星宮さんが弁当を配ってくれた。
……重箱に入っているこれが、弁当に分類されるのかはさておき。
「ありがとう、星宮さん」
受け取って、お礼を伝える。
それからすぐに食べようとしたのだが、彼女がそれを遮った。
「星宮さんってどっちかな~?」
「え? まぁ、ひめのことは『ひめ』って呼んでるから……」
「――ずるいっ」
……どうやら、呼ばれ方がお気に召さないようだ。
ひめもそうだったけど、星宮姉妹はあまり苗字が好きじゃないのだろうか。
「私も名前で呼んでね? ひめちゃんもそうしてるんだから、いいでしょ~?」
「いや、でも……ひめは年下だから平気なだけで、同級生には少し抵抗があるというか……あの、星宮さん? 聞いてる?」
「え? なに? 聞こえませーん。星宮さんってだぁれ?」
絶対に聞こえているくせに、彼女は聞こえないふりをしていた。
おっとりしている人だけど、意外と……なんというか、あれだ。
「……あの、陽平くん? お姉ちゃん、こう見えてかなり頑固なので一度言い出したら聞かないですよ。諦めて、受け入れるしかありません」
そう。結構、頑固な気がする。
ひめもそれに苦労させられているのか、ため息をついていた。
……性格だけ見ると、妹より姉の方が子供っぽい気がする。
清楚で大人びた見た目なので、なんだか意外だ。
でもまぁ、ギャップがある感じは可愛いと思う。
妹とはまた違う魅力があって、彼女に人気がある理由も分かる気がした――。
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