第十四話 緩いのか、あるいは抜けているのか
校長とのひと悶着を経て。
ようやく、ゆっくりとお昼が食べられる……と思ったのだが、ここであることに気付いた。
「ひめ……? そういえば、弁当ってどこにあるの?」
彼女はどうやら、俺の分まで用意してくれたらしいけど。
しかし、よくよく思い出してみると彼女はずっと手ぶらで、弁当らしきものは持っていなかった。
ひめとのおしゃべりに夢中で、今この時まですっかり弁当の存在を忘れていた。
はたして、どこにあるのだろうか。
「もうそろそろ、来ると思うのですが」
「来るって……学校に出前でも頼んだの?」
「出前――たしかにそれも魅力的な案ではありますねっ。今度やってみてもいいかもしれませんけど……今日は違います。お弁当を持ってきてくれる人が来る、ということです」
え、誰か来るんだ。
ひめの弁当を持ってくる人、か……単純に考えると、彼女しかいない気がする。
この学校にいる、ひめの家族。
姉の、星宮聖さんだ。
「――っ!」
ひめと仲良くしているので、いずれどこかで顔を合わせることがあるとは思っていた。
でも、まさか……このタイミングだとは予想できていなかったので、心の準備がまだできていなかった。
ど、どういう顔をすればいいんだろう?
だって、ひめは昨日こう言っていた。
『お姉ちゃんと結婚してください!』
もちろん、真に受けているわけじゃない。
でも、仮にひめがそう言ったことを姉の星宮さんも知っていたとするなら……少し、会うのが怖くもあった。
星宮さんは何を思っているのだろう?
どうか、ひめがそのことを伝えていないことを祈るばかりだ。ただの初対面であれば、どうにかやりすごせる……はず!
そこまで考えたところで、ついにその時が訪れた。
『ガチャッ』
突然、ドアが開かれる。
ノックもなく入ってきたのは、黒髪が綺麗な女子生徒。
「こんこーん♪ ひめちゃん、ごめんね~。お手洗いに行っててちょっと遅れちゃった~」
手提げ袋を持ってやってきた彼女は、間違いなく――星宮聖さんだった。
違うクラスなので、俺は彼女と会話したことがない。でも、顔は知っている……それだけ有名な人なのである。
何せ、星宮さんは綺麗な人なのである。
ひめみたいな可愛さとは違う、大人びた魅力があるというか……とにかく、とびぬけた容姿のせいで、男子からすごく人気があるというわけだ。
「……陽平くん、ごめんなさい。うちのお姉ちゃんはノックを口でするクセがありまして」
「いや、全然それはいいんだけど……えっと、あのっ」
とにかく、まずは自己紹介だ!
そう意気込んで名乗ろうとしたのだが、俺が言葉を発する前に星宮さんの方が先手を打ってきた。
「あっ。そういえば今日は男の子がいるんだった……お、お手洗いって言葉はなし! お花を摘みにいってたの。ごめんね~」
……こ、この人、すごくマイペースだなぁ。
意表を突かれたと言うか、拍子抜けというか……とにかく、気が抜けたのは確かである。
「今日は陽平くんもいるって、朝にちゃんと伝えたのですが……寝ぼけて聞いてなかったのですか?」
「き、聞いてたもーん。お姉ちゃんはしっかりしてるもの……って、そっかぁ。なるほど、だから今日はお弁当が一つ増えてたんだね~」
「……陽平くん、ごめんなさい。これがわたしのお姉ちゃんです。ちょっと抜けている部分がありますけど、見た目が綺麗なので許してください」
「見た目が綺麗だからっていうのは、許す理由にならない気が……いや、まぁいいんだけど」
ちょっと、かなぁ?
美人な見た目のせいか、しっかりしているイメージがあったのだが……もしかしたら、俺の想像以上に、星宮さんはおっとりしている人なのかもしれない――。
//あとがき//
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