第十一話 ひめちゃんはなでなでがお好き
結局、ひめは授業中もずっとひざの上に座りっぱなしだった。
もちろん、普通の生徒が同じことをしていたら教員に怒られるような状態である。
しかしこの子は何も言われない。
担任と同様に、どの教科の担当教員もひめに対して強く出られないのだ。
敬意と、それから畏敬と……あとは、恐怖?みたいな感情を彼女に抱いているらしい。
ちょっと例えが悪いかもしれないけど、爆弾みたいな扱いを受けている気がした。
怒らせたり、嫌われたりしないように、刺激をなるべく与えない態度をとっているのだ。
それが正しいとは決して思わないものの……まぁ、そのおかげでひめが俺の膝に座り続けていて、しかも彼女がそれを喜んでいるのなら、悪いことではないのかもしれない。
ちょうど、ひざの上にすっぽり収まる小柄な体なので俺の邪魔にもならないわけだし……誰にも迷惑が掛かっていないのなら、それでいいのだろう。
「んー……?」
授業中。暇なのか、あるいは授業に退屈しているのか、ひめが構ってほしそうに体をぐりぐりと押し付けてきた。
甘えるような態度につい頬が緩んだ。授業中なのでもちろんオシャベリはできないのだが、少しでも彼女の期待に応えたくてその頭をなでてみる。
「……んっ♪」
すると、ひめはとても満足そうに小さな声を漏らした。気の抜けた声は、聞いているこっちまで力が抜けそうである。
「ん!」
しかも、一度だけでは物足りなかったのか、もっとなでろと言わんばかりに、今度は頭を押し付けてきた。俺のてのひらに色素の薄い髪の毛をこすりつけている……そのまま軽く揺らして髪の毛を梳くように指を這わせると、ひめは満足そうに体を揺らした。
「ん~っ♪」
……なんというか、不思議な感覚だった
ひめの体温は俺よりも高いようで、彼女に触れていると少し暑さを覚えてくる。それはひめも同じなのだろう。年齢が幼いこともあって代謝も高いらしく、少し汗ばんでいる気がする。そのせいかひめのお日様とミルクが入り混じったような甘い匂いが漂っていた。
柔らかくて、温かくて、それからいい匂いがする。
……年の離れた妹がいたら、こんな感じなのだろうか。あるいは父親の気分に近いのかもしれない。
ついつい、甘やかしてしまいたくなるような。
あるいは、守りたくなるような。
そんな気分が芽生えてくるから、不思議なものだった。
そのせいで、もちろん授業には集中できなかったものの……普段の授業よりも遙かに、幸せな時間が過ごせた気がした。
――そんな授業を何度か繰り返して。
時刻はお昼を迎えた。
俺はいつも学食で食べているので、今日もいつも通りそうしようと思っていたのだが。
「あ、陽平くんっ。お昼、できれば一緒に食べませんか……? せっかくなので、もっとオシャベリしたいですっ」
ありがたいことに、ひめが誘ってくれた。
当然、気持ちとしては一緒に食べたい。しかし、実はひめの昼食に関してはとある噂があったので、俺から誘うことは難しいと思っていたのである。
その噂とは、
「でも、ひめっていつも校長先生と食べてるって聞いたことあるんだけど……俺と食べてもいいの?」
そうなのだ。
お昼時間、どうやらひめは校長室で食事しているらしい。この子が校長室に入るところを多数の生徒が目撃しているので、そういう噂が立っているのだ。
でも、それはどうやら真実ではないようで。
「いえ、校長先生とは食べてませんよ? 校長室は使わせてもらっていますが」
……なるほど。そういうことか。
やっぱり、噂は噂でしかなかったみたいだ。
「えっと……じ、実は、陽平くんの分のお弁当も持ってきていまして。勝手に用意したのはこちらなので、気を遣わせるのは申し訳ないのですけど……味は、すごくおいしいと思います。だから、その、ぜひ……!」
おっと。そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな。
「用意までしてくれたの? ありがとう、楽しみだなぁ……それじゃあ、一緒に食べよっか」
「いいんですか!? ……やったぁ♪」
頷くと、ひめはすごく嬉しそうな顔で喜んでくれた。
と、いうことで……俺はひめと昼食を食べることになった――。
//あとがき//
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