第四話 素直でいい子
……星宮さんは意外と、話しやすい。
正直なところ、とっつきにくいというか……話しかけても素っ気なくされるイメージを勝手に持っていた。
それはたぶん、俺だけの認識ではないと思う。
クラスメイト……いや、この学校のみんなが、星宮さんに対して敬意を持っている。だからこそ、気軽に話してはいけない気がしていた。
彼女自身、幼いながらに落ち着いている上に独特の雰囲気を持っているので、なかなか近寄りがたかったのである。
でも、話してみると……星宮さんは素っ気なくないし、なんならとっつきやすかった。
丁寧で、それでいて擦れていない。分かりやすく言うと……素直でいい子なのである。
「あ。そういえば……あまりにも美味しすぎて陽平くんの食べ物を全部食べちゃってますね。ごめんなさい」
ほら。こうやって偉そうにすることもなく、高圧的でもなく、丁寧に接してくれている。
子供っぽい態度、というわけではないかもしれない。子供にしてはいい意味で大人びており、だからこそ話しやすかった。
「いや、実は食欲がなくて……食べてくれてむしろありがたかったよ。俺一人だとたぶん、明日まで残ってたと思う」
「食欲がないということは、体調でも悪いのですか?」
「そういうわけじゃないけど、実は徹夜しちゃって……そのせいで今日はずっとだるいんだよね」
「なるほど。だから放課後になっても寝ていたのですね。授業中からずっと寝ていたので、実はちょっと気になっていました」
「……見られてたか」
「はい。寝苦しそうな顔がちょっと面白かったです。でも、居眠りはダメですよ?」
あと、周囲の人間に興味がないというわけでもなさそうだ。
隣の席だからだろうけど、俺の様子も見ていたらしい。
世間知らずで浮世離れしている一面もあるけど、やっぱり話してみると親しみやすい感じがあった。
だから、だろうか。
俺も今はまったく緊張せず、自然体でいられたのである。そのおかげで、気になったことも気軽に聞けた。
「そういえば、星宮さんはなんで居残りしてるんだ? 本に夢中だったとか?」
「いえ、違いますよ。お姉ちゃんを待っています」
お姉ちゃん、か。
星宮ひめの姉といえば、星宮聖(ほしみやひじり)である。この姉妹は有名で、全校生徒が知っていることだろう。
妹の方は飛び級している天才なので何もしなくても目立っているのだが……姉の方は一応、肩書き上は普通の高校二年生女子だ。
しかし、彼女はとんでもなく美少女なので、そういう意味で目立っている。つまり、妹と合わせて二人は美人姉妹ということだ。
そういうわけで、うちの学校には同じ学年に星宮姉妹がいる。一応クラスこそ別だが、二人が一緒にいるところはよく見かける。
なるほど。姉を待っていたのか。
「お姉ちゃんは生徒会のお仕事があるらしいので……本は暇つぶしです」
「そうだったんだ。てっきり、本が面白すぎるのかと思ってた」
「どうでしょうか。これは研究仲間の書いた学術書で、せっかく頂いたので読んでいますけど……内容はそこまで夢中になるほどではないですね」
「……英語で書かれてるけど、読めるのはすごいなぁ」
「まぁ、わたしは一度見たことや聞いたことは覚えられますから、言語の習得は得意かもしれません」
「それはまた、かっこいいね。漫画とかの主人公にそんな能力があった気がする」
「か、かっこいいですか? そうですか……えへへ、褒められるのは嬉しいですね。陽平くんは褒め上手なので、話していてすごくニヤニヤしちゃいます」
素直だなぁ。
俺の言葉をまっすぐ受け止めてくれて、喜んでくれている。
もちろん俺も他意があって口にしたお世辞というわけじゃないので、純粋に笑ってくれてなんだか嬉しかった――。
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