第三話 天才なのに世間知らずでチョロくてかわいい
「ただのクラスメイト? 信じられません……それではどうして、こんなに美味しい食べ物を持っているのですか?」
星宮さんはまだ疑っていた。
よっぽど、タケノコのお菓子が衝撃的だったようである。
「しかも、それをわたしに無償であげるなんておかしいですっ。わたしなら、全部独り占めすると思います」
「……そんなに美味しかった?」
「はい。それはもう、幸せという概念が味になっているのかと思いました」
そう言って、またしてもほっぺたを緩める星宮さん。
味を思い出しているのだろうか……表情が一気に緩んだので、こっちも更に力が抜けた。
この子は確かに飛び級している天才だ。
でも、天才である前に、幼い子供なのだ。
だったら、あまり気負うことなく……普通に接してもいいのかもしれない。そう、平凡な男子高校生の俺は思ったのである。
「でも、これはコンビニで売ってるお菓子だから、そんなに珍しいものじゃないよ」
「こ、こんびに! 噂には聞いたことがあります。24時間ずっと開店しているそうで……なるほど、そこにはこんなに素晴らしい商品が売っているのですね。でも、さぞかしお高いのでしょう?」
「それがなんと、200円くらいで買えちゃうんだ」
「にひゃくえん!? ……日本は今、深刻なデフレなのですか? こんなに素晴らしい商品がこのお値段なんて、ありえないです。適正価格が暴落しています」
……もしかして星宮さんって、世間を知らない?
コンビニのことも、市販のお菓子のことも、まったく詳しくなさそうだ。いつも何を食べているのだろう?
気になったので聞いてみると。
「普段? 普段はシェフが作る料理しか食べません。たぶん美味しいと思うのですが……いつも食べているので、正直よく分からないです」
やっぱりこの子、浮世離れしてるみたいだ。
シェフって……お抱えの料理人でもいるのだろうか。たぶん、俺のような庶民の食事とはまったく違うものを食べているような気がする。
なるほど。つまりこれは『庶民の食事が意外と美味しい!』パターンだ。この子、カップラーメンとかも多分知らなさそうなので、今度食べてみてくれないかなぁ。
というのはさておき……そういうわけだったのか。食べ慣れていない味だから、市販のお菓子であんなに感動したらしい。
さすが、激しい市場競争で勝ち残り続けるタケノコである。世間知らずのお姫さまでさえその味には感銘を受けていた。
「まぁ、そんなに高いものじゃないから気にしなくていいよ。星宮さんも気になったなら、コンビニで買ってみたらいいんじゃないかな」
「コンビニ……行ったことないので、ちょっと怖いですね。でも、今度お姉ちゃんと一緒に行ってみます」
そう言って、星宮さんはニッコリと笑ってぺこりと頭を下げた。
「素敵なことを教えてくれてありがとうございます。えっと……大空陽平くん、でしたね? 親切にしてくれて嬉しかったです」
……びっくりした。
「俺の名前、知ってたんだ」
自分で言うのもなんだが、俺なんて本当に大したことない人間なのである。一応、進級して二カ月経ってはいるのだが、未だに俺の名前を憶えてくれないクラスメイトは多い。なんなら担当の教師もちょっと怪しい。
そんなモブのことも、星宮さんは知っていてくれたようだ。
「はい。隣の席ですし……あと、わたしは一度聞いたことは忘れないので、ちゃんと覚えてますよ。出席確認の時に名前は聞いていますから」
もちろん、実は俺だけが星宮さんにとって特別な存在だった……みたいなことではないみたいだけど。
それでも、名前を憶えてくれているのは、すごく嬉しかった――。
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