第二話 もぐもぐお姫さま
――星宮さんがお菓子を美味しそうに食べている。
普段は微動だにしないほっぺたが、今はふにゃりと丸くなっている。その横顔を見ながら、俺は内心で驚いていた。
(星宮さんって、こうして見るとちゃんと子供だなぁ)
飛び級しているだけあって、星宮さんは精神年齢がかなり高いのだろう。八歳にしては大人びていて、態度も落ち着いている。
幼いのは見た目だけ。子供扱いできない雰囲気というか……星宮ひめには、独特な『圧』がある。
だからこそ、彼女は孤独だ。
いや、それは孤高と表現する方が適切なのかもしれない。
誰も近づけない高貴なる『姫』。
まさしく、そういう存在だと俺は思っていたのだが。
「……もう一個食べる?」
「――っ!!」
一個食べ終えて、まだ物足りなさそうな目で見られたので、袋から手に取って差し出してみると……彼女はまたしても勢いよく頷いた。
あまりにも美味しかったからだろうか。
手に取る時間ももったないと言わんばかりに、星宮さんは俺の指ごとタケノコのお菓子にかぶりついた。
『ぱくっ。もぐもぐ。ふにゃぁ』
擬音にすると、こんな感じになるのだろうか。
食べて、咀嚼して、その甘さで相好を崩す。
愛らしい笑顔を見ていると、ついつい俺まで頬が緩んだ。
「いっぱいあるから、好きなだけ食べていいよ」
「……んっ。んっ!」
俺の申し出に、星宮さんは目を輝かせて口を開けた。
早く食べさせろと言わんばかりに俺の指を見つめている。
(じ、自分で食べてほしいんだけどなぁ)
一応、お菓子の箱を差し出してみたものの……星宮さんは反応しない。黙って口を開けて、食べさせてくれるのを待っているのだ。
これは仕方ないか。傍から見ると幼女に餌付けしているみたいで危ない光景に見えるかもしれないけど、星宮さんが食べさせられることを所望しているのである……ここは彼女の意思を尊重しよう。
そういうわけで、しばらくお菓子を食べさせてあげた。
最初のうちこそ一つ一つ味わっていた星宮さんだが、次第に我慢できなくなったのか食べるペースが上がっていって……いつしか、リスみたいにほっぺたを膨らませて食べるようになった。
なので、意外とすぐに食べ終わって。
『ぱくっ』
最後の一個を俺の指ごとかぶりついて、それから付着したチョコまでも舐めとるように綺麗に口に運んでからは、咀嚼の時間が続いた。
『もぐもぐもぐもぐ……ごっくん』
もぐもぐタイムをしばらく堪能していると、それも終わりを迎えたようで……それから最後に、彼女はポツリとこんなことを呟いた。
「……この世にこんなに美味しい食べ物があったなんてっ」
丁寧で、それでいて少しだけ舌ったらずな声である。
そういえば、こうやって言葉を発している星宮さんを初めて見た気がする……彼女の声は返事くらいしか聞いたことがなかった。
大人びた雰囲気に反して、声は年相応に幼くて愛らしかった。
「あ、あなたは何者ですか? こんなに美味しいものを隠し持っているなんて……まさか、わたしをたらしこもうとしている他国のスパイですか?」
「いやいや。ただのクラスメイトだよ」
この子は何を言っているのだろう?
普通の子が言っていたら単なる冗談だと笑えるところだけど、星宮さんの場合は他国のスパイとか実際に接触していそうなので、判断が難しかった。
それくらい、彼女は有名でもある。
たしか、世界的に有名な科学雑誌に何度か論文が掲載されたこともあるのだとか。八歳にして他国でいくつかの研究に協力しているらしいので、色々な国から狙われているのかもしれない。
まぁ、残念ながら俺は見た目通り平凡な男子高校生なので、スパイなんてかっこいい存在ではない。
強いて言うなら、俺はただのモブAでしかないのだから――
//あとがき//
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