「男はクソと君が言うから、女もクソだと僕は言う」























 これを読んでる読者のみんなは知らないと思うから説明しておくが、私と結花ちゃんは完全なレズビアンではなくそれぞれパンセクシャル(私)とバイセクシャル(結花ちゃん)である。


 なので、百合の世界においては禁忌である男性との恋愛も……普通にする。


 一緒に住んでいるだけで付き合ってない私達は、お互い別の人と恋をすることだってある。


 ちなみに私は現在、前回の失恋を長いこと引きずっていて心の療養中なので恋とは無縁の生活をしているが……結花ちゃんは、というと。


「彼氏ができたの〜…!」


 ある日、嬉しそうに報告してくれた。


「おめでとう〜…!今日はめでたい日じゃ、赤飯じゃ!……私食べられないけど」

「赤飯だいすき!食べたい」

「炊くのめんどいから買ってくるわ」

「私も行く♡」


 ご覧の通り機嫌が良すぎてキモいくらいるんるんな結花ちゃんを連れて、赤飯やらなにやらを購入。


 そして盛大に祝った……数週間後。


「男なんて、みんなクソ」


 つい先日の浮かれぽんち結花ちゃんはどこへやら、打って変わって負の感情と文句を溜め込んだ様子で彼女は呟いた。


 そしてぶつくさと不満を垂れ流し始める。


「なんでさ、男って体目的な奴らばっかなの?みんなしてち■こ脳、ほんとクソ。最低、ヤリモクは全員揃って首■って■ね」

「い、言い過ぎでは…?」

「そのくらいこっちはひどい扱い受けてんの!だいたいさ、人のことなんだと思ってんの?女は穴じゃないっての!」


 や、やばい……あの優しい結花ちゃんが、彼氏に相当ひどい扱いされて別れた影響で主語バカデカ女になってる…。


「男なんてみんなち■こ切り取られればいいのに…あんなんついてるから対話もできないんだよ」

「そ、そうかなぁ…?そんなことないと思うけど」

「あきちゃんはさ、寝てる時にいきなり口にち■こ突っ込まれたことある?」

「ないです…」

「じゃあ、奢ったんだからヤラせろよって迫られたことは?」

「ありません…」

「生理になった瞬間、部屋から追い出されたこと」「待って。さっきからそれ、本当に現実で起こった話してる?創作じゃなく?」

「当たり前じゃん。現実の男なんてこんなもんだよ」

「えぇ…?」


 本当に?


 今まで私が付き合ってきた男性と、あまりに違いすぎて面食らう。


「わ、私が出会ってきた人達は、みんな理性的で知的で優しい人達ばっかりだったよ?そんな経験人数多いわけじゃないけど、でも……だから、全ての男の人がそうってわけじゃないっていうか…」

「あきちゃんの前では隠してるだけだよ。どうせみんな性欲に動かされてるだけなんだから」

「そ、そうかなぁ…?」


 私に見えてる世界と、結花が見てる世界の差があまりに大きすぎてビビる。ここまでくると、共感のひとつしてあげられない。


 確かに、下半身に脳みそがついてるらしい人の話は、他の女友達からもよく聞くけど……そこまで粗悪な人は一部なんじゃないの?大半はまともなんじゃ…?と思っちゃう私と違って、彼女達はまるで違う意見を持っている。


 だからこういう話題になると、私はおとなしく余計なことを言わず、黙って話を聞いてあげることしかできないのだ。


「私ってほんと……金と体しか価値ないのかな…」

「うん、それは良くない。その考え方は良くないよ、結花ちゃん」


 だけどさすがにこればっかりは黙っていられず、閉ざそうと思っていた口を開いた。


「どんな時でも、自分のことは大切に思っててほしいな。誰に何をされても、結花ちゃんの価値が下がるわけじゃないし……最終的に自分の心を守ってくれるのは、自分だからね」

「そうは言うけど……誰にも大切にされないもん、なのに自分で大切になんてできない」

「気持ちはめっちゃ分かるし、人から酷いことされるとそうなっちゃうよね。…でもね、結花ちゃんは素敵な子なんだよ。それを忘れないでほしい。良い子でも悪い子でも、私は結花ちゃんのこと素敵だと思ってるよ」


 相手の手を取って誠心誠意伝えたら、結花ちゃんはポロポロと涙を流しはじめた。


「もう……やだ…」


 そしてポツリポツリと、弱音という名の本音を話してくれた。


 ここの内容はおセンシティブでデリケートな問題なため省略するが、色々と過去の話も聞かせてくれて泣きやんだ頃。


「もう、あきちゃんと付き合いたい…」


 とんでもなく血迷ったことを言われた。


 失恋してすぐは、誰だって優しくされたらこうなる。それが分かっているから、いいよとは言わなかったし言えなかった。


「だめ。…そういうのは、もっと心が落ち着いてる時に決めないと」

「でも、だって……こんな優しい人いないし…」

「あのねぇ、私がこんなにも今優しいのは、結花ちゃんが失恋して落ち込んでるからだよ。いつもの私を思い返してごらんよ」


 そう言って目を覚まさせようと試みれば、結花ちゃんはぼんやり上の方を見上げて記憶をまさぐってるみたいだった。


「いや…?普段から優しいよ、あきちゃん」

「待て待て待て。だらしないとこもいっぱいあるでしょ。…それに恋愛ってなると、私は重いからさ。オススメしないよ」

「重い方が良い」

「……女と付き合うのは、もうこりごり」


 結花ちゃんの目を覚まさせるため、ここは厳しめな言葉を吐くことにした。…普段はあまり言えない本心とも言う。


 男はクソと言うけれど、私からすれば男も女も変わらない。むしろ私の周りでは男性のが理性的な人が多かったし、女性は感情的すぎて話にならないことも多かった。


 所詮、同じ人間なのだ。


 浮気するやつはどんな性別でもするし、男でも女でも話が通じないやつもいれば、話が合うやつもいる。


 結局は、人それぞれ。そこに男女は関係ない。


 結花ちゃんの周りにはたまたま性欲で突き動かされる人間が多かった、ただそれだけの話だ。


「感情的には女性の方が好きだけど……私は合わないかな。…いや正確には合わなかった、かな」

「……なんで?」

「浮気するし、言い訳するし、人のことモラハラ呼びしたり、先に殴ってきたから拳で抵抗すればDVだのなんだのほざいて終始被害者ヅラ、悲劇のヒロイン気取り。女ってやつはヒステリックにしか話せんのかねって思うレベルで冷静な話ができないから」

「い、言うねぇ…」

「だから、もうこりごり。今は男でも女でも誰とも付き合いたくない」

「……ごめん。変なこと言って」

「いーえ」


 立場が変われば、見方も変わる。


 たまには客観視せず、自分だけの立場から見て物事を言うのはこんなにも気持ちがいいんだ、と身勝手な思いでスッキリした。


 結局、結花ちゃんは本当に血迷ってただけみたいで。


「おやすみ〜」

「おやすみ」


 その日の夜は、何かを期待した気配もなくすんなり私の隣で眠りに落ちていた。


 だから私も、安心して目を閉じる。


 こうして平穏無事に、結花ちゃんは失恋から立ち直り、私は自分の貞操と心を誰にも奪わせずに死守できたのであった。









 ちなみに後日。


「彼女できた♡」


 恋多き女、そしてある意味モテ女でもある結花ちゃんからの報告に、私はため息を返したい思いで、それでも「おめでとう」と返した。


 今度の相手とは、いったい何日持つのやら。


 分からないが、ひとつ言えることは、


「やっぱり私は……恋愛はいいかなぁ」


 他人の恋愛話も、自分が恋愛するのも、もう本当にこりごり。


 やっぱり、恋愛は創作百合に限るよね。


 百合小説家らしく、そんなことを思うのであった。


















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