「いくら仲良しでも、仲がいいだけじゃやってられないこともあるよね」





















 ある日のこと。


「あのさぁ……何回言ったら分かんの?」


 私はパワハラ上司並みにネチネチとブチ切れていた。


 理由は単純明快。結花ちゃんの時間管理が下手すぎるからである。


 今日は久々にお出かけをしようと、予定を立てていたのに朝から結花ちゃんが寝坊。その上、まったりと熱い紅茶を淹れ始め、もう開き直って優雅に朝食を食べだしたのを、向かいのテーブルに座って見ていた私はムカムカした気持ちで眺めた。


「遅刻はまだいいとして……その、反省も何もない態度なんなの?楽しみにしてたんだけど、こっち」

「…ごめん」

「謝るんなら、さっさと準備していこうよ」


 私が促してやっと、結花ちゃんは食べるのをやめて準備を始めた。


 こっちはすっかり出る気満々で支度も着替えも、化粧まで済ませてたから、モヤモヤしつつおとなしく待つ。


 だけど結花ちゃんは、とことんマイペースで。


「あ。ここの汚れ気になるなぁ…」


 どうしてか、着替えを出すだけなのに部屋の掃除を始めてしまった。


「そんなん後でいいじゃん。早く行こうよ。着替えてよ」

「だって気になるんだもん」

「開き直らないでよ」

「開き直ってない」

「開き直ってるじゃん」

「開き直ってないって」

「っ……いいから、早くしてよ!もう2時間も待ってるんだから。堪忍袋の緒がちょちょぎれたらどーすんの」


 今日だって、行きたいランチのお店が混む前に10時には出ようって話だったのに、今はもう12時近い。


 激混みするお店なのをお互い知ってるから、早め早めに家を出て、並ばず入れるよう配慮していたはずなのに。


「ランチ3時までだもん。そんな焦んなくていいじゃん」


 この通り、結花ちゃんは諦めなのかなんなのか…開き直ってそんなことを言い出す。


 それにもまたイライラするけど、怒ってばっかでも仕方ない。一度はグッと怒りを堪えて、待ってる間は小説でも書いて時間を潰すことにした。


 そして時間はさらに進み……午後1時。


「あきちゃん、準備できたよー」

「……遅い」

「だから、早く行こ。もう家出ようよ」


 そこでプツリ、と堪忍袋の緒が切れた。


「あのさぁ……何回言ったら分かんの?」


 そして冒頭の台詞へと続く。


 この辺からもう、私の怒りは止まらなくて、“ごめんね”の一言すらなかったのも怒りを増幅させる原因で。


「今、何時だと思ってんの?1時だよ」

「知ってるよ」

「知ってんならもっと急いでよ。何時に出ようって話してた?昨日」

「……10時」

「だよね、10時だよね?だけど今は1時だよ。普通に待ち合わせしてたら3時間の遅刻だよ?同じ家にいるからって気緩みすぎじゃない?」

「緩んでないよ」

「緩んでなくても、そう見えちゃうよ」

「緩んでないって」

「いや、だから…」


 こうやって言い合うこと十数分。


「もういい。私は行かん」

「なんでよ。行こうよ」

「行く気なくした。行かん。ひとりで行けば」

「一緒に行こうよ。そう約束したじゃん」

「先に約束の時間を破ったのは誰?誰のせいでこうなってんの?自分が悪いって自覚ある?」


 と、またさらに言い合いに発展すること十数分。


「ねぇ、もう!ランチの時間終わっちゃうよあきちゃん」

「だから!誰のせいでこうなってんだって言ってんの!」

「ごめんって!謝ってるじゃん、ずっと」

「そういう態度も気に食わないの!そんなに行きたいならひとりで行けば!私はもう家で適当に食って寝る!」

「なんでよ、待ってよ。なんでそうなるの」


 そしてまたさらに言い合うこと……以下略。


 こうして散々喧嘩した挙句、ランチには間に合わず……結局。


「……焼肉行かね」


 起こり疲れて腹が減ったから、急遽予定を変更して大好物の焼肉へ行くことになった。…なんで?と聞かれても、私にも分からない。


「結花ちゃんの奢りね」

「わかった。…ほんとごめん」

「いいよ、もう。…私も怒りすぎた、ごめん」

「大丈夫。ごめんね」


 いつもいつも怒るのは私で、仲直りを持ちかけるのも私である。だからもはや怒る私が悪いのでは?と最近では思い始めている。


 結花ちゃんにしてもらってることはたくさんあるのに、このくらいで怒って癇癪起こしちゃって、そのせいで毎度泣かせてしまうのは気が引けた。


 だから「奢り」と言っていた焼肉も、最後の最後には割り勘にして。


「味……あんましない…」


 私に怒られてグスグスなきべそかいていた結花ちゃんは鼻が詰まったせいで味気なくなった焼肉に落ち込んでいた。


 それを見て、また胸を痛める。


 今日のこと……本当に悪かったのは結花ちゃんだけだったのかな。私にも悪いところあったんじゃないかな。


 とか、色々。


 悶々と悩んで、あまりに結花ちゃんが赤ちゃん👶みたく泣いてるから…とりあえず帰りに彼女の好きな元気ハツラツなドリンクを買った。


「仲直りしよ」

「…うん」

「てか、焼肉うまかった。ランチはまた今度さ、挑戦しよ。ほんでさ…」


 他愛もない会話を始めたら、あとはいつも通り。


「今日は銭湯でも行くかぁ〜」

「いいね」


 だいたい決まって、大浴場で体を癒やしに行く。


 だから車で近所の銭湯へ向かって、ふたり。


「休日……最高〜」

「最高〜」


 たとえ喧嘩した日であっても、終わりよければ全て良しなのだ。




 帰宅後。


「あきちゃん……食べたもの、食べっぱなし」

「あ。すみません…」

「靴下も脱ぎっぱなし」

「あ…ほんとにすみません…」

「トイレの電気つけっぱなし!」

「あ……ほんとのほんとにすみません…」

「次からはちゃんとやってね?まったくもう…」

「あ、はい……ごめんなさい…すみませんでした」


 だらしがない私にぷんぷん怒りながらも片付けてくれる結花ちゃんは、やっぱり優しい人で。


 持ちつ持たれつって、こういうことを言うんだなぁ…って、思った。


 









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