第11話 ゲームの開始

(ん…?あの艦兵達は…)


 海底にて資源を漁ってる途中、海面を移動している艦兵達を見つけた。別に海面を移動する艦兵達は珍しくない。警備の為の巡回をすることもあるし、採取した資源の輸送を護衛することもある。だから見つからないようにずっと潜りながら移動してるわけだが…


(…チュートリアル艦兵達か?)


 遠目から見てもなんとも華のある顔立ちだ。ゲームの広告とかでもメインで映されるほどにビジュアルが良いだけある。まぁ、そんな彼女たちは怨骸達に連れ去られてしまうわけだが。ファンが多かっただけに沈んだり連れ去られてたりして物語から退場したことに苦情が来たのだとか言う話が印象に残っている。


 にしても…もうゲームストーリ開始時期なのか。あの子たちは俺が沈んだ後に艦兵になった子たちである。つまりは滅茶苦茶新米艦兵である…ちょっと心配に思ってしまうのも致し方なしだと思う。


「…令奈、ちょっと気になる艦兵達を見つけた。尾けてみてもいいか?」

『親友が提案するって事は何か意味があるんだろう?いいよ、尾行してみて。あぁでも、見つからないようにね?君の今の姿は人型の怨骸なんだから』

「助かる」

『今の私は指令じゃないからね。確認取らなくても良いんだよ?』

「一応だ。それに連絡なしで帰るのが遅れたら嫌だろ?」

『よくわかってるね、親友は…また沈むなんて許さないから』

「分かってる。俺だって沈むわけには行かないからな」


 …バッドエンドにならないためにもね。


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 チュートリアル艦兵達は数匹の怨骸を沈め、向かった先は廃棄する事となった鎮守府だった。となると…今は一章の中盤だろうか?流石にゲームでの序盤の敵の編成とかは覚えてないからなんとも言えんが…多分そうだと思う。


 ここで主人公達は鎮守府を散策し、令奈の遺体と遺書を見つけるわけなのだが…肝心の令奈が生きているし、遺書も無い。その代わり事前準備として記憶にある限りの礼奈の遺書に似せた文を書いて置いておいた。

 ガッツリ原作介入してるわけだが…まぁ大丈夫だろう。確かここで手に入る令奈の遺書は未来の伏線なだけだったはずだし。多少の間違いはあってもそこまでヤバい事態にはならないはずだ。


 そんな事よりも大変なのは怨骸化武装であるカタリナが今俺の手に渡っている事だ。カタリナを主人公が取得したからこそ怨骸連合が主人公を襲撃し、そしてチュートリアル艦兵達を失って精神的成長が促されるのだ。


 精神的な成長は大事だ。失う辛さと、それを乗り越える心がないと司令なんてやってられないのだ。令奈の後釜として指揮する主人公君は最初はただの甘ちゃんでしかない。


 司令型艦兵と成ったにも関わらず民衆の声に左右され、怨骸とも話せるなら話し合いで終わらせるべきだなんて思っている。まぁ、上層部の奴らもそんな動かしやすさから司令に任命したのだろうが…


 まったく、上層部の奴らも呑気な物だ。自分達が居る場所を襲撃されるわけがないと思って好き勝手してやがる。前線に出ている艦兵達が現状を知ったら怒って謀反を起こす可能性すらある。


 …ふむ、いっその事俺が怨骸を演じて襲撃するのも手かもしれない。怨骸の相手だけでも手一杯なのに内部から不穏さを感じるのは困る。

 真に恐るべきは有能な敵ではなく無能な味方である…偉人がそう言ったように、大抵何かが滅ぶときのきっかけは強力過ぎる外敵ではなく、内部が腐る事で終わりに近づくのだ。


(まぁ、それはまた後でいいか。もしゲームストーリー通りに進むならば本土は確実に襲撃を受けるし)


 鎮守府を防衛するかの様に戦っているチュートリアル艦兵達を海底から眺める。

 やっぱり新米だから動きが鈍めだなぁとか思いながら…


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 そしてチュートリアル艦兵こと主人公達の動きを確認しながらの生活が始まった。


 しっかりと第一章の物語が進んでおり、数週間後には遂に廃基地へと辿り着いていた。カタリナが置いてあった場所である。


 そこの廃基地にはカタリナは置いてないはずなのだが、男級怨骸が見張りをしており戦闘をしていた。

 第一章のボス戦と同じ光景だ。


 男級怨骸が砲撃して攻撃するが、海面を滑る様に移動する艦兵達に避けられて反撃の砲撃を喰らう。

 しかし新兵なチュートリアル艦兵達の装備と練度なんざたかが知れてる…男級怨骸は軽い傷しか負っていなかった。


 軽傷で済ませられたのが予想外だったのだろう、「直撃したのに…!」と大きな声を上げてる艦兵が居る。

 にしても新米ちゃんよ…あまり感情を露わにするものじゃない。特に敵の強大さを表す感情は。


 そう言うのは大抵…士気を低下させるのだ。


 そこからはどんどんと艦兵達が劣勢に追いやられて行った。それも当然、そもそも新米艦兵達と初期装備…この状態で男級以上の敵と戦う事は想定されて無いのだ。倒せても…ギリ騎士級ぐらい。


 艦兵たちの攻撃がそこまで痛くないと分かった怨骸はニィッと口に当たる部分を歪ませ、まるで笑ってるかの様な表情となる。

 そして…とある1人の艦兵を狙い始めた。驚いて大きな声を出していた艦兵だ。


 怨骸と言うには案外賢い。カタリナを改造してみせたのだから当然とも言うが、それに加えて平級と騎士級を除く男級以上の怨骸は何気に感情もある。

 時々嗜虐心が芽生える個体も居るのだが…今回はそのタイプだったらしい。あの子が沈まないか心配なのだが…


 こうして…長い長い戦闘が続くのであった。


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