第10話 自給自足
水没した艦兵武装から弾薬や燃料を取り出し、数回の戦闘分は集まった所で一旦引き返す。
艦兵の扱う燃料や弾薬は海中でも使う事を考えられているから海中で放置されてたとしても使える程度には保存が効くのがありがたい。海水による錆びやすさってのは前時代的な考え方なのだ。
「ザバァン…」と音を立てながら海面に上がり、島に上がって令奈を寝かしてた場所に行くと令奈がポカーンとした表情で固まっていた。
…なんつう表情してんだ。
「どうした令奈、そんな惚けて。お前らしくないぞ?」
「ん…?あぁ、親友か。鎮守府で寝て起きたら私達が放棄した島で目覚めたんだぞ?そりゃビックリする。あと…ほら、武装解除されてるから服装が…ウン」
「あぁ…すまん、移動するときに邪魔だったもんでな。ほら、これ艦兵武装と燃料と弾薬だ」
「いや、その前に服をだな………」
「俺たちの仲だし今更だろ?」
「私は恥ずかしいのだっ!」
別に今の姿で恥ずかしがる必要は無いと思うんだがな…
今の令奈の姿は下着姿ってやつだ。専用武装の中には衣服も武装の一部として存在してるものもあり、ミラ武装もそれらにあたる。とはいえ…今服は修理中なんだよなぁ。地面に令奈を叩きつけた時に破損しちまったんだよな。
「すまんが服は今修理中だ。我慢してくれ」
「そ、そんなぁ…うぅ…」
本当に今更なんだと思うんだけど。昔に二人とも素っ裸で敵基地に潜入してたこともあったし、その姿のまま狭い空間で密着状態で過ごしたこともあった。たかが下着姿程度で恥ずかしがるもんじゃないと思うんだがな。
なに?童貞の考えじゃないって?艦兵の適正を持ってる大半は女性なんだよ…一々下着姿にドキドキしてると艦兵なんてやってられないんだよ。よく怨骸の攻撃で大破して服がボロボロになることもあるしな…羞恥は捨てよ。…愛を囁くとか全く慣れてないから恥ずかしいけど。
鎮守府とか堂々と裸で歩き回ってた裸族とかも居たからな。多分艦兵になったやつらは羞恥心とかぶっ壊れてるし危険が身近だからどこか考え方が狂ってたりすることもある。ちなみに艦兵は性欲を操作できる…基本性欲オフで過ごすことがルールだから性被害とかはない。艦兵じゃない人間が女性艦兵を襲っても艦兵になってない人間が艦兵に勝てないからな。
今の俺が令奈の眩しいほどに輝いて見える美肌を前に平常心で居られるのは性欲オフ状態なのも関係している。綺麗だな~程度の感想しか出てこない。もし性欲オフに出来なかったら…うん、多分襲ってる。
「んんっ、………よし、切り替えが出来た。それで何があって此処に運んだのだい?親友」
「そうだな…説明しとくか。まずは鎮守府が12匹編成の怨骸連合艦隊が現れた」
「連合⁉︎それじゃあ鎮守府はもう…」
「あぁ、恐らく怨骸に占拠されてる…て言うところだけれど、去り際に二桁の魚雷を連合に向けて放っといたから運が良ければ全滅してる。子級が旗艦だし数だけって感じだったしな」
「そうか…となると万が一をとって鎮守府には戻らない方が良いか。…少し悲しいけどな」
それと燃料と弾薬の総数と、怨骸化武装に関する説明もしておいた。「うぇ…燃料直飲みかい?」だとか、「なるほど、だから姿が…」だとか言っているし再度説明が必要なことは無さそうだ。
「それじゃあ、まずはここを拠点とした方が良いかな?」
「そうだな…ここなら怨骸も寄ってこないし良いと思うぞ」
「よし、じゃあ親友…そう言えば個体名を変えたんだよね?なんと呼べば良い?」
「鴉羽って呼んでくれ」
「了解…じゃあ鴉羽は海底資源の調達をしてくれ。私は陸上資源の調査をしておくよ…海底資源は出来るだけ燃料優先、まずは地盤を固めるよ」
「了解した。それじゃあ行ってくる!」
「あぁ、行ってらっしゃい。……必ず戻ってきてね」
「…流石にもう、沈まないからな」
令奈は俺が沈んで帰ってこないと思ってしまったのだろう。…大丈夫、沈まないから。
それにあの沈む感覚は嫌でも脳裏に残っている。手や足の先から冷えていき、海底に放置された骸の一つになる様な感覚。そして徐々に意識が希薄になっていくのを感じながら視界が無くなっていくのは…非常に死が近くに感じられて嫌になった。
俺は前世を思い出して何故か生き返ったが…それでも、もう死と言うのは経験したくない。
もし死ぬとしても大陸の地を踏んでから死にたい。だから俺はこんな所で沈んでられないのだ。必ず生き抜いてみせるさ。
こうして俺達の自足自給生活が始まった。燃料や弾薬も増える一方で溜まり続け、手付かずだった大地は肥沃で植物等も育ちやすかった。
魚などもそこら辺を泳いでおり、取って食べる事も出来て陸上生物も比較的安全ながらも時々食料や皮として狩る事もできた。二人だけという事もあってかなり豊かな生活を送っており、かなり満たされる生活を出来ていた。
そしてそんな生活を送り、数ヶ月程経ったある日の事。
…とある艦兵艦隊を見つけたのだった。
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