第9話 辿り着いた無人島で

 ………平和だな、ここ。



 今現在、俺と令奈は無人島にいる。ちなみにいまだに令奈は寝ている…コイツってワーカホリックっぽさがある代わりに一度寝ると何やっても起きないんだよな。工廠の騒音を浴びせても、流れ弾が当たっても、水中に沈めても起きないんだよな…

 でも謎なのが俺が耳元で「愛してるぞ」って囁いたら顔真っ赤にして飛び起きた事がある。アレは本当になんだったんだ?


 なに?今囁いて起こせば良いじゃんって?いや…あれは普通に恥ずかしい。確かに後輩に好かれ、一部の艦兵からは愛の告白も貰った事もあるけど俺は生粋の童貞だ。そもそも前世を思い出すまでは怨骸を駆逐する事に専念してて色恋をする余裕が無かったのもあるが。


 まぁ…童貞にとって耳元で囁くのは普通に難易度が高い。伯級怨骸とタイマン張れって言われた方が気楽なまである。

 それに…令奈って普通に美人さんだしな。


 晴れ渡る空の様な綺麗な髪色を肩まで伸ばし、今は閉じている瞳は海を思わせる器の大きさを感じれる青色をしている。

 肌に傷は少なく、司令と言う事もあって室内にいる事が多いから肌が白く美しい。体型はスレンダーで見る人によっては痩せ型に見えるかもしれない…だが背の高さも相まって男装が似合う麗人っぽさを醸し出している。

 しかも後輩の艦兵達に俺以上に相談相手に選ばれたりするほどに頼りにされており、俺も安心して指示に従える頭脳を持つお姉様な女性なのだ。


 …まぁ、つまり素晴らしい女性と言う事だ。そんな女性に冗談であれ「愛してる」と言うのは普通に恥ずかしい。


「…とりあえず寝かしとくか」


 この無人島は滅茶苦茶安全だ。何せここは特殊海域…みたいな物で波の動きが激しく、また複雑なのだ。俺はカタリナの性能によるゴリ押しで突き進んだが、おそらく普通に艦兵/怨骸武装では辿り着ける場所では無い。


 その安全性から一度人類の生存域にする候補にも上がったのだが、艦兵すらも動けない場所でありそこまで陸地面積が大きいわけでも無いから結局放置されていた場所だ。まぁ、5人程度ならこの島だけで生きて行けるとは思うが。


 もしこの島に危険が及ぶとしたら航空戦力が投下された場合だろう。その時はその時でカタリナを空母化させて艦載機で落とせば良いだけだし。

 本当にカタリナが優秀過ぎる…回収に行ってよかった。


『褒めてくださりありがとうございます、マスター』

「おぅ、コレからも頼りにしてるぞ」

『はい』


 カタリナに搭載されている人工知能…まぁ、名前はそのままカタリナなのだが、こいつはいわゆる俺の相棒とも言える存在だ。

 俺が最高傑作の艦兵として生まれ、そして生きる為に必死となって生み出した最高傑作であるカタリナ…特別であり、本当に人類の希望だったのだろう。たかが怨骸化した程度で王級を筆頭にしたラスボスとタイマンを張れるのは化け物だからな。


 ちなみにカタリナは怨骸化武装にはなっているが、人工知能としてのカタリナは怨骸化していない。そこはまぁちょっと秘密があるのだが…簡単に言うなら精霊みたいなのが宿ってるって思ってもらって良い。

 宿主が狂っても宿った者が狂わないと言う描写があったりするだろう?それと同じだ。


 さてと…カタリナの説明をしたところで一旦海を見る。令奈は寝てるし…俺がやる事は生存の為の物資集めか。


「カタリナ、潜水モードだ」

『了解、マスター』


 カタリナを潜水モードに切り替え、海に潜る。


 この世界の物資の大半は基本的に海底から採取される。例外は植物や陸上動物から取れる食べ物ぐらいで、鉱石資源と言った戦争に必須な物もエネルギーとなる燃料もとにかく海底から掘り出す。


 理由は俺ら艦兵にある。今や大陸から追い出され、数少ない人間が住める陸地…島々は大抵住宅地にされている。そんな中で採掘作業なんぞ出来るわけもなく、水中で活動出来る艦兵が居るのだから海の底から取ってこれば良いじゃないって事になったのだ。


 そんな事もあって今や住民の大半は艦兵である。艦兵自体の数は案外多かったりする。

 だがその中でも戦闘に不向きな者も多く、そう言う人達は【採取組】に分けられてたりする。


 俺や令奈が居た鎮守府の奴らは前線に立つ事から【前線組】、逆に後方支援に徹してる艦兵達は【支援組】。あとは【護衛組】だとか【工作組】だとかがあったりする。

 なお俺は全ての組での活動経験がある。ほら…初めて生まれた艦兵だから機能が滅茶苦茶盛り込まれてるお陰で全てに適性があるのよ…


 それに人員不足の時とかもあったからな…特に工作組、特定の艦兵の力を最大限出す為の専用武装とか作れる人が少ないからよく手伝ってた。令奈が扱う艦兵武装:ミラも専用武装の一つだったりする。

 …それでも、人工知能が搭載されているのはカタリナだけなんだけどな。


 おっと話が逸れた。

 つまりは無人島の陸地から資源を採取するぐらいなら海底から資源を取った方が良いと言う事だ。特にここら辺の海域はその特殊性も相まって手付かずなのだ、一回で取れる量も相当多いだろう。


 だが今回必要なのは主に燃料と弾薬だ。…まぁ、お気付きかもしれないが、燃料は精錬が必要だし弾薬は制作しなければいけない。

 俺は無限弾薬だから大丈夫なのだが…問題は令奈だ。いくら安全な無人島とは言え自衛手段無しはなぁ…


 それと燃料も必須だ。艦兵は最悪、燃料でエネルギー補給できる様になっている。味はヘドロを飲んでるようでくっそ不味いし、後味も最悪だし、飲んだ後の暫くの間は気持ち悪さもあるが、その分大量のエネルギーを確保出来る。


 …緊急時の食糧と言う事だ。でもそんな不味さも案外慣れる物だ、俺も令奈も何度も窮地を乗り越えてきた。もう何度燃料を飲んだか分からないのだ。


 そんな燃料と弾薬の完成品が取れるのは…まぁ、死体の側にある武装からだ。

 ちょっと心苦しいが…糧とさせてもらうぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る