第3話 帰還?せし希望

『ザッバァァァン』


「あ゛ー…キッツ。片腕片足でよくここまでたどり着いたな、俺。マジで自分を褒めてやりたいわ」


 おびただしい数の肉片と機械を掻き分けながらもなんとか進み、この世界で過ごした記憶を頼りになんとか鎮守府へと戻ってきた。

 …なんとも厳しい道のりだった。まさかはぐれたのか知らんが1匹の怨骸が寄ってくるとは思わなかったからな。


 …すぐ側に生きてる魚雷があって良かった。アレがなかったらマジで死んでた。


「…にしても、人気が無いな。何があった?建物も設備も壊れてないから襲撃で壊れたって事は無さそうだが」


 鎮守府からは一切の声も作業音も聞こえない。不思議に思いながらも俺は這いつくばりながらも工廠へと向かう。

 …まずは義手でも義足でもくっ付けたい。動きづらくてしょうがないのだ。


 なんとか工廠へと辿り着いた俺は、工廠の中を物色する。


「確かこの辺に…あったあった。あいつめ…いつも少しは整理しろと言っただろうに」


 とある後輩の工作好きな艦兵が作った義手と義足を掘り出し、身体に取り付ける。あぁ…歩けるって素晴らしい。思わず涙が出てしまうほどだ。

 ほんと、肉片の大地を掻き分けて進むのはきつかった…多分SAN値チェックをしないといけないほどだと思う。


 ある程度自由に動ける様になったところで俺は病院へと向かう。今の俺は満身創痍…しかも機械とかも掻き分けて進んできたせいでより酷い傷が出来ている。…ちょっと治療しないとまずかもしれん。


 て事で勝手知ったる病院内を歩き、薬品やらなどを手に自身の治療を施す。コレでも俺は長い事艦兵をやってたんだ…治療技術も学んでいるのだ。


「…よし、コレで大丈夫か。あとは………武装か。カタリナはまぁ反応が無いよな」


 俺の愛用していた艦兵武装であるカタリナはおそらく通信不可になってる。と言うか多分カタリナが通信不可になる程にダメージを肩代わりしてくれたからこそ俺は生きてるのだろう。………ほんと、カタリナは最後まで俺を守ってくれたんだな。

 それにこれはゲーム通りだ。ゲーム通りならば恐らく…


「いまは…まぁ、汎用で良いか。あとでアレを取りに行けば良いし」


 工廠に戻って汎用型艦兵武装を取り出す。主砲と魚雷と近接武器の剣、それと紙装甲と現実でもゲームでも馬鹿にされた装甲を身に付けておく。もし怨骸が潜んでたら装備する暇なんてないしな。


 そしてこの鎮守府でやるべき必須事項を終わらせたから、次は探索だ。…人気が無いのが謎だ。もし誰かいるならばその人に聞けば良いし、誰もいないならば司令室に行かねばならないだろう。


 一応、親友である司令からはどこに立ち入っても良いとは言われてるしな。…機密文書の多い司令室はあんまり立ち入った事は無いが。あとそんな配慮を聞いて頬を膨らませながら不満を露わにするアイツにはいまだに納得がいかん。


 そんなわけで宿舎も病院も工廠も調べたわけだが…もぬけの殻だ。所々に私物が置いてあったりはしているが、後輩達が大切にしていると言っていたものは全てなくなっている。


 …これは、この鎮守府を放棄したのか?いやまぁ、確かにこの鎮守府は最重要拠点では無いけども。

 ………この鎮守府が静かなのはなんか寂しいな。誰かが沈んでどんよりとした雰囲気であっても、必ず何かの音は聞こえてたと言うのに。


「…今はそれどころじゃないか。さっさと何があったか調べないと」


 すまん、と心の中でひと謝りして司令室に入って書類を読む。

 戦果報告…戦意喪失者リスト?おいおい、大半の艦兵が戦えない状態になったって事か?あの襲撃はそんな激しくなかったはずだが。


 そう思いながらも書類を読み漁ってると…見つけた。


「…鎮守府の放棄命令。鎮守府の維持をする事はこれ以上無理と見られたか。確かに最前線でありながらも大半の艦兵が戦えないとなると一回襲撃されりゃあ終わるからな…まぁ妥当か」


 …寂しい部分はあるがな。ここで育てた後輩達は元気にしてると良いんだが。


「さてと、やる事は終わったわけだし…どうしようかねぇ。電文でも送るか?いや、怨骸共の演出って思われるだけだな。存外あいつら賢いのがなぁ」


 …そもそも俺には機械を操作する権限が無かったな。あれは司令とか秘書じゃないと無理だ。俺はただの一艦兵だしな。


「うーん…ちょっと早いかもしれんが、取りに行くか?怨骸どもがちゃんと行動してればあの装備は出来てるはずだし」


 そう独り言を呟きながらも海面へと立つ。うーむ、やはり義足だとバランスが取りづらい…まぁ、しょうがないか。


「えーっと…確かあの方角だったっけな?取りに行きますか、チート装備を」


 そして俺はとある方向へと海面を滑って移動していく。


 ………そして鎮守府に近づく人影に気付く事はなかった。

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