第2話 失った希望

 人類side


【鎮守府】

 敵襲を凌ぎ、無事に鎮守府を守った事で本来はちょっとした祝いムードのなるはずの時間。だが今現在、そんな祝いムードは一切無くむしろ祝いとは真逆に非常にどんよりとした雰囲気が漂っていた。


「先輩が…沈んだ…?そんなのウソですっ!だって!だって先輩は………先輩はっ!」

「私だって信じたくないよ!でも…でもっ…私はこの目で見たもん…伯級の怨骸えんがいと相打ちのなるところを…」

「ねぇ…嘘だって言ってよ…お願いだから……先輩は…私達の希望なんだよ…?そんな簡単に沈むわけ…ないじゃん…」


 それはとある宿舎の一部屋で放たれた悲しさに満ちた声。


「……なんで。なんで私を置いて沈んでいっちゃうの?私は…私は貴方の為なら肉壁になったって良いのに…なんで?

 ………もう、こうなったら私も沈むしか…」


 それは、同じくとある宿舎の一部屋で呟かれた病みを感じる声。


『ドガッ!』

「………」

『ドゴッ!バギッ!』

「………」

『メキメキメキ…バギャッ』

「………主殿」


 それはただひたすらに、ただ一人しか居ない訓練場で鳴り響く破壊音。まるで行き場のない…不甲斐無さからくる怒りを込めて殴っている様にも聞こえた。


 他にも食事が喉を通らない者、沈んでしまった者を幻覚で見てしまう者、戦意を喪失して部屋に篭ってしまう者などなど…


 大半の者が戦意喪失してしまい、鎮守府に居た艦兵含む人類は全員本土へと帰還命令が出たほどだ。

 そして…とある一人の艦兵の命を犠牲に守った鎮守府は放棄する事となったのだった。


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 司令官side


 どんどんと小さくなっていく鎮守府を見ながら、私は思う…コレでよかったのか?と。


「なぁ、親友…お前は、こんな所で終わってよかったのか?」


 いいや…良くない。あいつの怨骸への憎しみは相当な物だったはずだ。あんな…あんな襲撃で沈んで良い感情じゃなかったはずだ。


「…いや、それは私の指揮が悪かったからか。…申し訳ない」


 おそらく私は多くの艦兵…いや、人類から批判をくらうだろう。何せ私の指揮で沈めてしまったのだから。我ら人類の希望を…


「良くて牢屋送り、悪くて大陸流しだろうな。…フフッ、大陸流しになったら鎮守府に骨を埋めるのを良いかもしれんな」


 大陸流し…またの名を追放。死刑宣告とも言う。

 異形の怪物である【怨骸えんがい】、そ奴らが跋扈する海上へと我が身一つで放り出されてかつて人類が生活してた大陸へと追放すると言われる処刑方法だ。


 …勿論、辿り着く前に死ぬ。辿り着いても大陸はもはや怨骸共の巣窟だろう…結局生き残ることも出来ずに死ぬ。まぁ、野垂れ死ねと言う事だ。本土以外の何処で死んでも変わらんだろう。


「まったく…こうなるならば無理矢理にでもアイツを前線から外したってのに」


 あいつは…技術不足により修復不可と言われているアイツ専用の武装を使い続け、いつ爆発してもおかしくない状態でも戦い続けた。

 私も、後輩も、整備士だって戦うのを辞めてくれと言っても前線に赴いたのだ。もし…無理矢理前線から外しても勝手に出撃するだろう。


「………はぁ、コレから私達はどうすれば良いのだ」


 私達人類は希望を失った。初代艦兵であり、戦場の英雄。数多の戦果を上げ、他の艦兵では勝てないとされた怨骸すらも沈めた伝説の艦兵。

 初代でありながらも最高傑作の艦兵…後輩の艦兵からの信頼も厚く、最前線のスター。


 …そんな存在が居なくなり、コレからの人類は戦えるのだろうか。


 ………戦えなければ、全滅するだけだ。


「…なぁ、親友。なんでお前は…汎用装備に切り替えずに【カタリナ】を使い続けたんだ?何故修復不可能な装備を…使い続けたんだ?………私には分からないよ」


 もう鎮守府が見えないほどに離れた場所でも、私は変わらずに鎮守府の方を見続ける。

 その鎮守府にはもう…愛した親友はいないと言うのに。



 *****


「判決を下す。罪人である【・・・】元司令官を大陸流しとする!実行は翌日の早朝にて行う…それまでに心の準備をしておく様に」


 …あぁ、やっぱりそうだよな。私は死刑にされるべきだ。最高の兵を失い、鎮守府を放棄する原因を作ったのだ。むしろこうならない方がおかしい。


 そして私は大陸流しをされる事となった。早朝に埠頭の端に座りながら思う。

 …あぁ、どうせなら鎮守府に行こう。私と親友が共に戦い、戦果を上げたあの鎮守府こそが私の死に場所に相応しい。


「…指揮官、時間ですよ」

「………あぁ、分かった」


「ごめんなさい、指揮官」

「いいさ、これも君たちの仕事だろう?」


 護衛…と言う名の見張り役の艦兵が来たらしい。そうそう、案外意外だったのが艦兵達は私を責めなかった。むしろ艦兵たちは自責をしてたくらいだ。まったく…本当に良い子達だな。今だって私を送り出すのに申し訳なさを感じてる。


「なぁ、君たち。このまま鎮守府に行かないかい?なぁに、どうせ大陸送りなんだ…どこで死んでも構わんだろう?」


 あぁ、そう涙を浮かべないでくれよ…私はただ死に場所を提案しただけだと言うのに。


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