淡いフィルム

「じゃあ、さっそく読みあわせします。」

文化祭の映画製作が始まった。台本を読み合わせて、動きを確認したら撮影する。セリフが抜けて取り直したり、時には通行差が来ちゃって取り直したり…の繰り返しだったけど、カメラにうつる自分を見るのもなんだか不思議でわくわくした。私が演じるあかりは、いつもまっすぐでぶれない女の子だ。作品の中で彼女はたくさんの試練にぶつかる。友達と同じ人に恋をしたり、部活で上手くいかなかったり、親の喧嘩に悩んだり。でも、どんな時でも、まっすぐに思いを伝え、周囲の人を必ず笑顔にしてしまうのだ。そして最後は、正々堂々と友達と恋の対決をし、あかりは告白に成功する。もちろん、その彼は成瀬君演じるはるきだ。はるきはクラスの中心人物で、みんなの人気者。ちょうど成瀬君と同じでサッカー部だ。

…もちろん、私はあかりにはなれない。でも、自分ではないあかりを演じられることが楽しくて仕方ない。演じているときは、自然と笑える気がした。


「高梨さん、今から帰り?一緒に帰らない?」

「あ。うん。」何度目かの映画撮影終わりに成瀬君に声をかけられた。

「高梨さんってすごいな。演技上手すぎ。俺、相手役なの申し訳ないんだけど(笑)」

「そんなことないよ、成瀬君サッカーで忙しいはずなのに、すっごい「はるき」のことわかってて、今日の「俺はどうしていいかわかんない」って言うシーン、すっごい感動した。あと、…」

「っはははは。高梨さん必死に語りすぎ。」

「ご、ごめん、でも演劇部にいてもおかしくないくらい上手いから。」

「ありがと、なんか最近高梨さん明るくなったよね。」

「え、そう??」

「うん、俺サッカーでキャプテンやっているからか、人の変化に気づく才能はあるんだよ。」

「すごいね。さすがキャプテン。

…うーん、多分映画が楽しいからだよ。」

「あ、それはおれも!これからも頑張ろう!じゃあまた明日~」

「うん!」成瀬君も撮影楽しいって思ってくれてるんだ…。うれしくて、でもにやけてるのを隠すために咳払いした。


「ねえねえ、みんなお昼持ってきた?」

「持ってきてないけど…」「俺も~」

「ことは?」「あ、私も持ってきてない。今から近くのコンビニ行こうかとおもってたとこ。」練習が終わった後に、花がみんなに満面の笑みで提案してきた。本当はすぐに塾に行くつもりだったけど、一日くらいいいよね…。

「やった!今からみんなで撮影おつかれ様ってことでご飯行かない?」

「いいけど、花、まだ撮影終わってないよ~~??」

「いいじゃん、こと、かたいこと言わないでさぁ~~」「俺は三浦さんに賛成!どこ行く?」「成瀬ナイス!」「腹減っただけ。」「ピザとかどう?」「いいね!!」

監督の寺本君に、カメラ担当の北林さん、衣装・ヘアメイク担当の花と、キャストのみんなで映画への思いを語り合う。初めはやる気がなさそうに見えた人もいたけど、みんな見違えるように一生懸命にやるようになった。どんどん仲良くなって、まとまりも出てきて、もう言葉にできないくらい楽しかった。映画を撮っているとき、私はなんでもできるような気さえする。背中に羽が生えたみたいに自由になれる。日常に不満があるわけじゃない。でも、ここが私の居場所だって自信を持てる。ずっとこの時間が続けばいいのに。

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