君がくれる眩しい光
それから3日休んで何とか撮影に参加した。全く集中はできなかったけど、塾にも行った。ただ、一人でいるとごちゃごちゃ考えちゃうから、一人になりたくなくて、外に出ただけ。
そして長い長い撮影が終わった。もう、成瀬君とも関わらなくてもいい。学校に来なければ、花とも会わない。早いとこ帰ろう。
「ねえ!!打ち上げしない??」
「三浦さん、それいい!成瀬君は空いてる?」
「サッカーの練習今日は休みだからいけるよ。」
「寺本君は??」
「楽しそうだから行こうかな。でも、夜はさすがに勉強しないと。」
「今勉強の話しないでよぉ~。」
「ごめんごめん。高梨さんは行ける??」
「…。」
「高梨さん??」
「あ、ごめん。」
「こと、どうしたの?」
花が珍しく、心配そうな顔だった。やばい、みんなの雰囲気を壊すのはさすがにだめだ。
「空いてるよ。」
大丈夫。ただ静かに空気を壊さないように参加して、花とも成瀬君とはなるべく話さなければいい。そう思った。
私たちは北林さんの提案でカラオケに行った。カラオケなら、途中でも抜けやすいし、公園を抜けたらすぐ駅に行けるから。それは私にとっても好都合だ。「ごめん、俺そろそろ…」適当に歌って食べて2時間が過ぎたころ寺本君が帰る話を切り出した。
「あ、私もそろそろ帰るね。」
「え~~、こと帰っちゃうの~~」花がマイク越しに言ってきた口調が酔っ払いみたいでみんな大爆笑。私も苦笑いして「ごめん、また」って言おうとしたときだった。「俺も帰るわ。」「えっ」
何で成瀬君も帰るのよ!!「そっかぁじゃあねぇ~」しかも、なんで花止めないのよ…。
方向が違う寺本君と別れた後、仕方なく、成瀬君と帰ることになってしまった。
どうしよう。き、気まずい…。前までなんて話してたっけ…。会話記録でも取っておけばよかった。どうしよう。でもずっと黙ってたら変に思われるし…。公園の静けさが辛い。
「高梨さん」
「っひゃ。」必死に考えてたせいで変な声が出てしまった。「あはははは」
「もう!!」
「ごめんごめん、あはははは」
成瀬君の笑っている顔を見ていたら、自然とおかしくなってきた。「ふふふ」
「あ、」
「うん?どうしたの??」
「高梨さん、やっと笑った。」
「え、あ、」
「最近全然笑ってないし、なんか避けられてる?て思って」
「そ、そう??」ば、バレてた…どうしよう、申し訳なさすぎる…
「あのさ、俺でよかったら相談のるよ?」
「えっ」
「いや、その、前にも言ったけど、おれ、キャプテンだから。そういうの他の人より得意だよ。そのだから…」必死に語る成瀬君は珍しくて、でもうれしかった。
「高梨さん、??」
「私ってどんな人?」
「え、?」
「あ、いや成瀬君から見た私ってどんな人かな、って。」
「え。……う、うーん。……真面目、かな。」
「…。」
「あ、悪い意味じゃないから。なんていうのかな。勉強だけじゃなくていろんなことに一生懸命になれる人って意味。どんなことも手を抜かないで努力するから、みんな高梨さんを頼っちゃうんだろうなってすっごい感じる。…なんか恥ずかしいな。あ、ベンチ座ろ。」
「うん。あ、ごめん。ありがとう。」
「でも、なんでそんなこと?」
彼が真剣に話を聞こうとしてくれてるのがわかって、気づいたら…
「…私さ、そんなすごい人じゃない。」
「…どういうこと??」
「…。」
「言いたくないなら言わないでいいよ。」
「……いなの。」
「え?」
「私、最低なの。あのね、…誰にも言ってないんだけど、私ホントはずっと女優になりたかったんだ。映画とかドラマとかで輝く女優さんに憧れてたの。ホントは高校受験の時も悩んでた、親に言うか。中3のクラスにさ、売れてないけど芸能界目指してた男の子がいたの。最初は純粋にすごいなって思ってた。でもだんだん、羨ましいって思い始めた。ただ自分が挑戦できないことに挑んでるその子に嫉妬しただけなの。それなのに、素直にその子のこと応援できなかった。」あのころのことを思い出して、涙が出てきた。でも、成瀬君はただ静かに聞いてくれていた。
「高校に合格したら、親に言おうって思ったの。でも、でもね、高校になんとか合格してね、親の喜び見てたら、まさか女優になりたいだなんて言えなかった。だから、せめてもの思いで演劇部入ったの。だけど、やっぱり映画と演劇じゃ全然違くて。演じるのは楽しいんだけど、私がやりたのはこれじゃないって思ったの。
だから、クラスの映画で主役やらないかってクラスの子たちが言ってくれた時、すっごくうれしかった。でもね、撮影にのめりこんでいくうちに、この撮影が終わったらって考えちゃったの。また、悩むのかって。そしたら、怖くなって。目標に向かって頑張る成瀬君と可愛くて明るく笑っている花がどんどん羨ましくなったの。私は心から笑えていないのにって。一緒にいるのが辛くなってきて、撮影もずる休みした。私、最低でしょ。自分に自信がないから何もチャレンジしてないで、ただ諦めて頑張っている他の人に嫉妬して。私はこういう人なの。」
一気に言ったせいで息が切れていた。顔も涙でひどいことになっているんだろうな。言い終わった後、また静寂が戻ってた。冷静になった途端に怖くなった。冷や汗さえ出てきた。成瀬君、怒ってるよね…。どうしよう。怖くて、成瀬君の顔が見れない…。
「高梨さん。話してくれてありがとう。」
「えっ。なんで」
「うん?」
「わ、私人として最低なこと言ったんだよ?何で、何で怒らないの??」
「三浦さんと俺に対して嫉妬したこと?
それってさ、誰もが経験することじゃない?」
「え、、」
「俺も似たようなことあるよ。中学の時、バドミントンで優勝したやついてさ。俺、高校受験だから、とか言って中3入ってすぐ引退したんだけど、そいつはずっと頑張ってた。しかもそいつ、勉強できんだよ。俺、すっげー悔しくて勉強必死にしたのに、いつもかなわなかった。挙句の果てに優勝、もう何もかも嫌になってさ、そいつに言っちゃったんだ。お前は何でも思い通りにいっていいなって。そいつがめっちゃ努力してたの知ってたのに。自分ができないからって、そいつと俺は違うって自分から諦めたんだ。だから、高梨さんが自分を最低って言うなら、俺も同じだな。」
こんなつらそうな彼の顔は見たことが無かった。いつもきらきらしてて、目標に向かって迷いなく突き進んでいると思ってた。彼の辛そうな顔を見ると私まで辛くなる。
それに、私は彼が努力家なのを知ってるから。
「そんなことないよ。成瀬君は、ちゃんと勉強して、高校合格してるじゃない。」
「それは高梨さんも同じでしょ、頑張ってるその芸能界入った人見て、勉強して、努力の結果合格した、違う?」
「…。でも、成瀬君は今、サッカーしてる。ちゃんと、諦めてないし、ちゃんと頑張ってる。」
「うん。もう逃げたくないって思ったから。でも、迷いもあるよ。このままサッカーし続けてもプロになれる保証はない。正直言って怖いよ。親にも、「そろそろ現実と向き合え」ってこの前言われた。だから、しっかり考えて悩む高梨さんは偉いと思う。
…ちょっと前に、高梨さんに「私ってどんな人?」って聞かれたとき、俺、「真面目」って言ったじゃん?あれ、そういう意味。俺はサッカーは必至にやってるのに考えることから逃げてるから、高梨さんが羨ましくなったんだ。」
「そんな風に思ってくれてたんだ。」成瀬君の告白に驚きを隠せなかった。彼はいつも自信があると思ってた。
「それに俺、高梨さんもまっすぐだと思うよ。」「ええっ!?」
「っふは。そんなに驚くか?」
「だって…」
「やりたいことにまっすぐだから、他のことやりたくないって思うんじゃないか?そもそもやりたいことをやりたいって強く思って、真剣に考えているから悩んでるんだよ。今の自分から変わりたいって心から願っていなかったら、高梨さんのその悩みは生まれてないよ。高梨さんは、正面からまっすぐ向き合おうとしているんだよ。」彼の言葉はまっすぐで、心にすとんと落ちてくる。
「あのさ、俺、高梨さん、あかりそのものだと思う。あかりはいつもまっすぐじゃん。でも、俺が台本読んで思うあかりよりも高梨さんが演じるあかりの方がすっごいまっすぐでさ。最初は「こんなにまっすぐな人いないだろっ」って解釈不一致だったんだけど、どんどんそのまっすぐさに引きこまれてった。まっすぐすぎて怖いくらい。マジで動物で例えるらなイノシシだなって思った。」
「いのしし!?」
「うん。ただ、まっすぐすぎて心配にはなった。いつか、壁にぶち当たって、壊れてしまうんじゃないかって。前さ、俺の演技褒めてくれたじゃん?あの時もまっすぐだったよなぁ。すごいよ、ほんと。あのまっすぐさに俺は救われた。だから、ありがとう。」
「そ、そんなこと…」もう我慢できなかった。うれしくてうれしくて涙が勝手にあふれてきた。今まで心にこびりついて離れなかった悩みが少しずつ流れていくのを感じた。
「あとさ、三浦さんのことだけど、心配してたから、ちゃんと話してあげたらいいと思うよ。信じてるんじゃないかな、高梨さんが話してくれるの。」
「うん。ありがとう。ごめん、涙止まんないや。」
「いいよ、泣けるときに泣きなよ。」
やっぱり私は恵まれているんだろうな。花とちゃんと話したい。お父さんとお母さんにもいつか、きっと話したいな。彼の言ってくれたまっすぐな私のままでいたい。私は泣きながら強く強くそう願った。
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