第39話
「無理をさせてはだめ。それに、私もゆっくりしたいし……」
殿下がふっと笑う。
「ゆっくり?シャリナはいろいろあったことを記録にまとめたり、国を離れていた間に出版された本を読んだりとしたいことがあるんだよね?ふふ、分かった。邪魔しないようにする。一週間後に会ってくれる?」
ああそうだ。
私ならきっとそうして過ごす。
リンクル殿下はそんな私のことを……よくわかって……3年の間も忘れずに覚えていてくれたんだ。
立太子されて、忙しく過ごしているというのに。
「じゃあ、行くよ。皆に迷惑をかけちゃシャリナに叱られちゃうからね」
ざわざわと周りの人のざわめきが耳に聞こえてきた。
あれは殿下じゃないのか?という声も。
そりゃそうだ。絵姿が売られていたのだから、顔を知っている人もいるだろう。
服装も立派だし。
殿下が私の腕を話して歩き出した。その横にマント姿の男が並ぶ。
護衛だろうな。殿下の背を見送り、マーサさんの元へと駆け寄る。
マーサさんは私が誰かと話をしているのに気が付いて邪魔にならないように声をかけずに待っていてくれた。
ありがたい。もし、近づいて、ルゥイの顔を見られていたら……。
マーサからルゥイを引き取り抱っこする。
ルゥイは少し身じろぎしたものの、すーすーと気持ちよさそうに寝ている。
「いやぁ、びっくりしたよぉ、さっきリナと話してた男の人……そっくりだったじゃないか」
マーサさんの言葉にびくりと体を固くする。
「え?」
「ルゥイにさ。もしかして、亡くなった旦那さんの血縁者かい?」
マーサさんの言葉に首をぶんぶんと横に振る。
「ち、違ったわ。私も、もしかしてと思って思わず声をかけてしまったけど、生まれも育ちも全然違って……」
マーサさんは私の言葉にすぐに納得したのか、うんうんと頷いた。
「王都にはああいう顔の人はたくさんいるんだろうねぇ……」
「そ、そうね」
「殿下の絵姿も、あんな感じだったよ~」
「え?」
「ほら!ルゥイにそっくりだろう?思わず買っちゃったよ」
マーサさんが、くるくると丸めて鞄に突っ込んでいた紙を取り出して広げた。
「あ……」
思わず声が漏れる。
「ビックリしたろう?きっと、ルゥイもあと何年かしたらこういう風になるんじゃないか?」
絵姿の殿下は、初めて会ったころの殿下……10歳のころの顔。
なつかしさと……そして、記憶以上にルゥイに似ているその姿絵に、胸がぎゅっと締め付けられた。
もう、二度と殿下と会えないんだ……。
王都を去った後、国からも出よう。
ルゥイが成長していけば、殿下に似ていると思う人は、きっと増えていくだろう。
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