第40話
それから2日。
ルゥイにはフードをかぶせ、なるべく人気のないところで過ごした。
街に戻る日、宿に手紙を預けておく。
「もし、シャリナーゼという女性を探しに来た人が訪ねてきたら、この手紙を渡していただけますか?」
私を探すとは限らないけれど……。
手紙には私が移り住もうと思っている国とは逆の方角に接している国の名を記した。
そこで世話になった人から語学教師を頼まれたから行くことにしたという内容だ。
語学教師をするためにと言えば、きっと信じてもらえるはずだ。
社交界での私の評判は……「勉強しか取り柄のないつまらない令嬢」だったのだから。
偶然再会し、そのまま馬車に載せてもらうことになった……と言うことにした。
一週間後に会おうと言っていた約束を破ってごめんなさい殿下。
マーサさんたちとは帰りの馬車に乗っている間に、お世話になった感謝と、国を離れることを伝えた。
戻ったらすぐに荷物をまとめて出発することも。
「……そうかい。何か事情があるんだろう?」
マーサさんは何も聞かないでいてくれた。
「来た時も突然だったからねぇ……。でも、困ったことがあったら、いつでも帰ってきていいんだからね?私はもすっかり、ルゥイのおばあちゃんのつもりだから」
マーサさんの言葉に涙が落ちる。
「それから、リナ、あんたのお母さんのつもりだよ」
泣き出した私の背中をトントンと優しく叩いてくれるマーサさん。
「ありがとうございます……私……」
思い出したい。3年間の記憶。
きっとマーサさんには考えられないくらい世話になっているんだろう。
他にも、きっとたくさんの人に助けてもらって今があるはずだ。
なんで忘れちゃったんだろう。
手紙を書いて送りたいけれど、それすら足がつく可能性がある。
本当に、なぜ王都に行ってしまったのか……。
しっかりと、帰りの馬車で別れを惜しんだ。
お店につくと、すぐに荷造りを始める。
私の荷物は小さな鞄に一つ。それからルゥイの荷物が私と同じくらい。
部屋の中を見渡し、首元に手を持っていく。
「あ……」
また、癖が出てしまった。
リンクル殿下からもらった高価な青い石のついたネックレス。
落としたり無くしたりしていないかと、しょっちゅう確かめていた時の癖。
記憶のなかった3年間でこの癖は無くなったのだろうか?記憶を失ったからまた出てきたのだろうか?
それとも、昔のことをいろいろと思い出したから……。
「マー、マー」
ルゥイがクローゼットの中に入り込んで床を叩き始めた。
「ああ、ごめん、ごめん。さぁ、ルゥイ、行こうか」
ルゥイを抱き上げようとすると、腕を振って抵抗を始める。
「行きたくないの?」
マーサさんたちと別れて出ていくということをルゥイも理解しているのだろうか。
私も行きたくないけれど……。ルゥイを護るためには……。
不安から、また首元に手を持っていく。
あ……。
そうなんだ。
私のこの癖……。
落としていないのかと気になって触って、ネックレスがあることにホッとすることを繰り返しているうちに、不安な時にホッとしたくて手を持っていくようになっていたんだ。
不安な時に……リンクル殿下からもらったネックレスから安心感をもらっていた。
「ヌダリラーア ボラァ……」
王都で会った殿下との会話を思い出す。
隠した……宝……。
「マーマ、トントン」
「え?」
クローゼットの床板を叩くルゥイ。
ううん、違う。よく見ると、叩いて何かをしようと……。
「あ、まさか!」
ルゥイの叩いている床板を見ると、一部に小さな穴が開いている。指が何とか入るくらいの穴だ。
「有難う、ルゥイ!」
ルゥイをぎゅっと抱きしめて、クローゼットから出す。
そして、穴に指を突っ込めば、床板が外れた。
「ああ、やっぱり……そうだ……」
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