第34話

「え?シャリナ?」

「青い石のはまった指輪が見つからなくて困っているのでしょう?騎士が探しているのを見ました。……見つからないなら新しく作ったらいいんですよ、いくら気に入っていたとしても、新しいものもまた気に入るかもしれません」

 記憶の抜け落ちたときに何があったかは分からない。

 分からないのにあまりにも無責任な言葉ではあるとは分かっている。

 だけれど、殿下はとても賢い。1つの言葉で10のことを理解できる。

 私が殿下に伝えたいこと。

 そんな困った顔をしないでということは分かってもらえる。私だけではなくて、他にたくさんの人が殿下のことを心配しているということにも気が付くだろう。

「いや、違う、俺は……シャリナに……ひどいことをした、許してくれなんて言葉さえ許されないほどのことを……」

 え?

 私、殿下に何をされたの?

 例えば、青い石の指輪がなくなってしまって、プロポーズしようと思っていた人のために特別にデザインしていた大切なもので……。その犯人として私を疑ったとか?

 私ではないと分かった後も、一度犯人扱いされた私は居づらくなって海外に逃げた?

 いや、そんなことではないよね。

 だって、じゃあ、ルゥイは?

 もしかして、ルゥイを託されて身を隠す必要があった私がいなくなっても不自然ではない理由として誰かが青い指輪を使って仕組んだ嘘?

 殿下は私を犯人だと一瞬でも信じてしまったことを悔いて、指輪を取り戻し真犯人を見つけ、私に誠心誠意謝罪したいと思っているとか?

 ……いや、それでは時期が合わない?

 私は3年の記憶がない。

 殿下がプロポーズを考えていたのは3年前。デザイン見本の指輪はすでに本物が作られていただろう。とすると、試しに作った指輪の方は、殿下なら「これは使用されなかったデザインだから」と、私が素敵だと言ったものに石をはめてプレゼントしてくれたかもしれない。

 それを盗んだと罪を着せてルゥイとともにどこかへ身を隠させたのは、時期的に合わないよね。

 ルゥイは2歳前後だろう。流石に、青い石の指輪を下賜されてから1年もたってから盗んだというのもおかしな話だ。

 じゃあ、一体、ひどいことって何?

 もしかして、ルゥイを私に託したこと?

 身を隠す生活を強いていること?

 でも……。

「殿下、私は今幸せですよ?」

 伝えないと。

 マーサさんたちいい人に囲まれている。

 何よりルゥイはかわいくて、ぷすっていう寝ているときの鼻を鳴らす音すら愛おしくて。

 記憶がなくて何が起こるか分からない不安はある。

 でも、不幸だとか辛いとか悲しいという思いはない。

「シャリナ、それは、俺は……あのことは、許してくれると……思ってもいいのか?」

 何のことか分からないけれど。

 少し前に脳裏に浮かんだ、殿下の苦しそうな顔を思い出す。

 私が幸せなように。

 殿下も幸せでいて欲しい。

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