第33話

■視点戻ります


 だめだ!

 あんなにそっくりじゃ……!

 姿絵を見た人が、ルゥイを見たら……。

 気が付かれてしまうかもしれない。

 王家と関係があるのかと疑われてしまうかもしれない。

 少なくとも印象に残る。記憶に残る。そして、見つかってしまう。探している者がいたら。

 王都を離れないと。

 姿絵がこれほどあふれているのは王都くらいだ。地方では陛下の即位時の姿絵が公共の施設に飾られるくらいで……。幼少期の姿を知っている人はいないけど。

 バクバクと心臓が激しく脈打つ。必死に走っているから息が苦しいのか、ルゥイが見つかって誰かにとりあげられてしまうかもしれない恐怖で息が苦しいのか。

 もし命を狙う者がいたら、取り上げられるだけではなく……!

 最悪のことを想像して目の前がちかちかする。

 ああ、なぜ私は記憶を失ってしまったのか。

 どうして王都に来ようと思ったのか。

 ルゥイ、ルゥイ!

 王都を離れないと。

 多くの人でにぎわっている大通りから、人通りの少ないわき道に入る。

 腰にぶら下げたアメリカンクラッカーが、走る私の振動でカツンカツンと音を立てる。その音が建物に挟まれた路地に大きく響き渡る。

 カツンカツンという音が、誰かに追いかけられている音のようで、余計に気持ちが焦る。

 逃げないと。

 王都を一刻も早く離れないと。

「見つけたっ!」

 後ろから伸びた手に羽交い絞めにされる。

 捕まった!

「シャリナ、シャリナ……見つけた」

 この声……。記憶の中よりも少し低くなったこの声は。

「で、殿下……」

 声が震える。

 見つけた?

 殿下は私を探していたの?どうして?

 私は、殿下から逃げてた?

 殿下に頼まれて王家の血を引くであろうルゥイをかくまっていたわけではない?

「シャリナ……俺のこと分かるのか?顔も見てないのに……」

 しまった!

 思わず殿下と口にしてしまったけれど。

 確かに私は今後ろから捕まえている殿下の顔を見てはいない。見てないのだから、普通なら……。

 誰の手につかまったか分からず悲鳴を上げるなりするはずなのに。

 これでは他人の空似ですとごまかすこともできない。

「殿下こそ、よく後姿だけで私だと分かりましたね?」

「そりゃ、シャリナは俺の……いや、その……そう、その赤い丸いおもちゃを持っていると聞いたから」

 え?

 腰にぶらさげた赤い玉に視線を落とす。

 私がこれを持っていると聞いた?

 知っているのは店の人とこれを買ってくれた准騎士……。

「青い石のついた指輪を探していたのは……殿下?」

 パッと殿下の手からのがれて振り返る。

「あ、シャリナ……」

 私の顔を見た殿下が泣きそうな顔になった。

 3年たった殿下は、肖像画に描かれていた姿よりも少し幼く見える。

 肖像画用に取り澄ました顔をしていたからだろうか。今の泣きそうな顔は……。

 確かに私の最後の記憶にある殿下よりもずっと大人にはなっているけれど、こういう表情は昔のままだ。

「大丈夫、大丈夫ですよ殿下」

 不安を取り除いてあげたくて、口を開く。


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