第30話
「殿下?」
はっと意識を戻す。
今は、シャリナの消息がつかめないのだ。話は見つかってから……。
もう、陛下と……父上と約束した期限となってしまったのだ。
3年……成人してから3年は待つと。
それを過ぎたら、婚約者を決めると。
その3年が過ぎてしまった。
この1年の間に婚約者を決めなければならない。
見つかってからどうするかの段階は過ぎているのだ。
もう、あきらめて前に進まないとダメなんだ……。
分かっている。
分かっているんだ。
だから、これが……最後だ。
隣国からも多くの者が集まるこの祭りで何の情報も得ることができなければ……。
シャリナにカードを贈ることも思いを告げることも、何もかも諦める。
シャリナのことだから、語学力や豊富な知識を生かして、隣国では貴族の家庭教師の職を得て生活するだろうと思った。すぐに調べさせたけれど、見つからなかった。
豪商にまで調査を広げたがやはり見つからず。
家庭教師として働いているわけではないのかと、通訳として文官で働いているのか?商隊にいるのか?
いろいろな可能性を考えて探させた。
……。
ふと、シャリナとのやり取りを思い出す。
「殿下、分かり合えないと思っていた人と、言葉を交わすことで分かり合えるのって素敵なことだと思いませんか?」
西の国からの使節団が来ていた時だ。
俺が11歳、シャリナが16歳。
いつもと違う髪型。いつもと違う化粧。いつもと違うドレス。
いつもよりも綺麗な姿で現れたシャリナ。
西の国の使節団を歓迎するための舞踏会が催された。
きらびやかなドレスに身を包んだ美しい女性は他にもたくさんいた。
むしろ、シャリナはその中でも地味な方だし、誰の目も引くような美しさがあるわけではなかった。
だけれど、俺の目は釘付けになった。
目が離せなかった。
通訳として俺の横に立つシャリナ。
誰よりも輝いて見える。
「外国語を学べば、言っていることは分かるが誰とでお分かり合えるっていうのは難しいだろ。例えば、あのしかめっ面したやつ」
訳も分からずドキドキするのを悟られたくなくて、ぶっきらぼうにシャリナに答える。
「そうですね。確かに誰とでも分かり合えるわけではありません。でも、分かり合える人か分かり合えない人か判断することはできますよ」
シャリナがにこりと笑うと、俺の心臓がどきりと音をたてた。
そのままシャリナはしかめっ面をしている西の使節団の一人に近づいて行った。
シャリナが話かけると、20代半ばの男は驚いたような顔をしたが、すぐにシャリナとにこやかに話し始めた。
「なんだ、あの男……」あんなにつまらなそうな顔をしていたのにっ」
シャリナに話しかけられたとたんに嬉しそうな顔をしやがって。そう言えば、西の国の男は女に手が早いと言う話だったんじゃないか?
シャリナが楽しそうに笑っている。
くそっ。
「シャリナ、甘い言葉に騙されるなよっ!」
思わず二人に近づきシャリナの袖を引いた。
「ああ、殿下。甘い言葉?よくサフィアールさんが言っている言葉が聞き取れましたね」
嬉しそうに笑うシャリナ。
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