第31話
「な、なんだよ、シャリナが教えてくれたんだろ、西の国の男はまず女性を褒めるのが挨拶代わりだって……」
シャリナがさらに嬉しそうな顔をする。
「褒められてそんなに嬉しいのかよっ!」
シャリナが首を横に振った。
「褒められればうれしいですが、挨拶だって分かってるので、ぬか喜びはしませんよ。それよりも、殿下がちゃんと私が教えたことを覚えていてくれるのがうれしいのです」
『*!`#$&TY"#POBB#$#+P#』
『$~%$=YHY+FOTH=”=!+』
『?*U’P)M<D+V>NRY=&)$%』
『*#‘”OGOTI”PGO』
サフィア―ルとかいう名前の男がシャリナと西の国の言葉で会話をする。
時々、覚えた単語が聞こえるものの、全体として何の会話をしているのかがまるきり分からない。
悔しい。分からないのが、悔しい。
ぐっと奥歯をかみしめる。
シャリナの言葉が分からないのが……。
「殿下、彼がしかめっ面をしていたのは奥歯が痛かったからなんだそうですよ」
シャリナが俺に話かけた。
「奥歯が痛いときにはユキノシタの生葉で塩をくるんで噛むといいと教えたら、ユキノシタとは何かと……西の国にはない植物のようなのです。興味があるというのですが、食料以外の植物に関しても話合われれば何か新しい発見があるかもしれませんね」
シャリナの言葉にハッとする。
国と国とのつながりを深めるためにやってきた使節団。
何気ない会話から、国の友好を深める手立てになるのではと気が付くシャリナ。
それに比べて俺ときたら……。
「じゃあ、ちょっとユキノシタの葉が手に入らないか聞いてきますね」
シャリナがそう断って立ち去った。
「安心してください殿下。彼女を口説いたりしませんよ」
サフィアールが突然口を開いた。
「こ、言葉!しゃべれないんじゃなかったのか!」
こちらの言葉で流ちょうに話す。
「騙すつもりはなかったのですが、彼女が私の国の言葉で話かけてくれたもので……」
確かにシャリナから話かけたんだ。
「殿下は、我が国の男が女性を挨拶のように褒めるという風習があるのをご存じなんですね。では、番のこともご存じですか?私には番がいますので、誰かを口説くことはありませんよ」
しかめっつらだったのがうそのように、人の好さそうな顔を見せるサフィアール。
大人の男だ。柔らかく微笑むと、先ほどまでの怒ったような表情をしていたときとはまるで印象が違う。優しく女性にもてそうな顔になった。
「番って、運命の女性のことだな。サフィアールは思い人がいるということか?それとも既婚者ってことか?」
サフィアールが首を横に振った。
「この国には番の概念がないんでしたね。運命の相手とは少し違うんですよ。何と言いますか……一目ぼれした女性に運命を感じたなどとこちらの国では使うでしょう?」
「ああ、まぁそうだな。しょっちゅう運命の相手と出会う恋多き者もいるな……」
それで大変なことを起こす好色な貴族も過去にいたと学んだな。運命の女性と出会ったから婚約破棄をする者とか。そういうこともあり、我が国では婚約は15歳からという決まりがある。……とはいえ、内々で家同士で話はまとめられていることがほとんどらしいが……。
「番というのは、それとは少し違うんですよ」
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